2012年10月25日木曜日

ROEとサステナブル指数の比較


企業の持続可能性を評価する指標開発を進めています。

以下のように、サステナブル指数を定義します。
サステナブル指数=△ 企業ソーシャルキャピタル/△営業利益 (△はmarginal、限界をi意味します)

その意味は
  • 営業利益が1単位増えた時に、企業ステークホルダーの信頼性をどの程度高めることができるか?
  • ストック/フロー
  • この数値が高いほど、フローの活動を企業のストック(資産)に効率的に転換できる持続可能性が高さを示している
実際に、株価パフォーマンスをみると、
ROEと株価パフォーマンスはマイナスの相関を示すが、
サステナブル指数と株価パフォーマンスは正の高い相関を示します。
              図表 ROEとサステナブル指数の比較表


    このインプリケーションは、
    • 株式市場ではROEの情報が取り込まれているので儲からない
    • サステナブル指数は株価パフォーマンスに取り込まれていないので株価パフォーマンスが高くなる
    ということだと思います。

    実証から分かったことは
    • 営業利益を高めることは企業ソーシャルキャピタルを高めることにもつながる
    • その営業利益を高めることが企業ソーシャルキャピタルに転換できる比率は企業によって大きく異なる
    • 効率的に転換できる企業(サステナブル指数が高い企業群)は株価のパフォーマンスも高くなる
    • 株式市場は長期的な持続可能性を評価している
    • だから、企業は、営業利益を高めるだけでなく、ステークホルダー全体の信頼性、企業ソーシャルキャピタルを高める経営をすべきである
    ということが言えると思います。

    ソーシャルファイナンスのテーマ

     全国NPOバンク連絡会の常任理事会にオブザーバーで参加させてもらった。いろいろと議論で参考になることが多かった。

     世の中のいいことにお金を回そうという意味では、NPOバンクはソーシャルファイナスの一部であり、その一つの手段という位置づけである。

     私が目指しているのは NPOバンクという手段よりは、クラウドファンディング、P2P型ではあるが、その関連性は非常に強い。

    ソーシャルファイナンスのどういう手段を用いるのがいいかは、対象者、資金使途、状況によって異なる。

    日本の今後のソーシャルファイナンスのテーマとしては、

    生活保護費が拡大し、不正受給が社会問題化しており、生活保護費の予算は絞られる方向にある。しかしながら、生活保護から脱出するための手段は絶対に必要。むしろ問題は、生活保護から抜け出すことができないという点になり、そこで、ソーシャルファイナンスを活用しようという議論もあり、どう位置づけられるかがポイントとなる。また、中間的就労が必要という議論があり、それを支援するという位置づけでもソーシャルファイナンスが使われる可能性がある。

    もう一つは、休眠預金の活用。この政策は民主党が推進してきたが、自民党は否定的であるから実現は難しいかもしれない。もし実現した場合には、その受け皿はどこかということになる。

     

    2012年10月24日水曜日

    社会的バリューチェーン生産性の測定


     例えば、流通業者が、自社の生産性、環境負荷などを計算したとしても、それは社会全体からするとごく一部に過ぎない。本当は、その流通業者が関わっているプレーヤー全体、社会全体のバリューチェーンの生産性、環境負荷などを考えないといけないと最適化はできないのだ。ウオールマートなどの先進企業は既にそのような方向に動き出している。

     経済活動の連鎖全体のコストを把握し、その連鎖を構成する他の組織との連携のものとに、コストを管理し、成果を最大化するのだ。例えば、かつてアディダスが児童労働によって人権批判されたように、いくらCMでいいイメージを打ち出しても、生産過程のバリューチェーンで不適切な行為があれば、イメージもダメージし、売上にも影響を及ぼすのだ。

     ただし、そのためには、バリューチェーン全体のプレーヤーから情報インプットを提供してもらう必要がある。これは言うほどには易しくはない。

     今後、会計分野でも大いに進化する必要があると思うのが、この社会的会計、企業を所有という区分を超えた枠組みでの生産性をどう測定するかというテーマである。

     個別企業の最適化から、社会全体の最適化にどう移行できるかは、持続可能性を考える上でも非常に重要なテーマとなる。

     ソーシャルインパクトを測定する際にも、この社会全体のバリューチェーンを考えることが実は非常に重要なのである。そのためには、企業という枠を超えた、社会会計、共通のルール作りなどが必要となる。

    有効な効果測定指標の条件は?


     ソーシャルイノベーション研究会で、HBRThe True Measures of Successを研究した。有効な効果測定指標は何か?というテーマである。例えば、あなたが野球のスカウトだったとしたら、投手であれば何を基準にスカウトすればいい投手をとることができるのか? 勝利数か? 防御率? 奪三振数? 企業の場合でも、様々な効果測定指標、経営管指標が開発されている。筆者が言うには、企業は安易に入手可能な指標に飛びつくが、その指標が、真の価値を反映していない場合は、結果は悲惨なことになる。

     ここからは私の意見であるが、例えば90年代後半から日本企業はこぞってEVAを導入した。グローバル競争の時代には資本コストを考えた経営が必要という主張で、例えばソニーやパナソニックが一斉に導入したが、結果はどうだったか? 正直言って、結果は悲惨なことになったと言えるだろう。

     また、企業にとってはイノベーションの重要性が増しており、この辺りの効果測定指標を開発する必要性が高まっていると思う。ROEのような資本の効率よりも、イノベーション効率の方が企業のこれからの明暗を分けるだろう。

     一つ大切なことは相関関係と因果関係は違うということだ。これまでの景気変動をみると、スカートの長さと景気は関係があるという。女性が短いスカートをはく年は景気が悪い(?)という。ただし、そこに相関があったとしても、因果関係はない。したがって、そのみせかけの相関は常に次回の景気変動の時は裏切られるかもしれない。ただし、因果関係が明確であっても、あまりに遅行した効果測定指標は指標としての有効性、価値が低いということも理解しておく必要がある。

     また、もう一つ大切なことはその指標を使う目的を常に考えることだ。株主価値最大化のパラダイムのもとでは、時価総額経営やROE最大化が正当化されたが、ステークホルダー全体を考える経営に移行した場合には、時価総額やROEだけでは不十分な指標になるのだ。現在、ステークホルダー重視が強まっているが、必ずしもその経営に有効な指標が開発されたとは言えない状態なのだ。ポーターの共有価値、経済的便益と社会的便益の両方を追求するという考え方が、パラダイムシフトとなりつつあるが、そのための有効な効果測定指標が開発されてないのだ。

     ソーシャルメディアにおいても、Facebookのいいね!を各社こぞって増やそうと時間と労力をかけたが、実際にマネタイズに成功した企業は数えるほどしかないのが現状だ。つまり、いいね!を自社のソーシャルメディア戦略の有効な経営指標と想定した企業はむしろ企業価値を損なったと言えるだろう。では、どう考えればいいのか? 私はエンゲージメントROIというフレームワーク、考え方を開発しており、またの機会に紹介したい。

    2012年10月22日月曜日

    ROE最大化の問題点


     アンケート等をみると、企業は株主価値の最大化、ROEの最大化を企業の目的変数にしているところが多い。現在はこのROE最大化のパラダイムが過剰適用して形となり、逆に問題を引き起こしている。

     多変数の制約条件付き最適化問題をやったことがある人ならご存知だが、多数の資源の組み合わせによって生産がおこなわれる問題の解法は、稀少資源が最も効率的に使われるようにするのが正しい答えを導くコツである。

     例えば、小売業であれば、売り場面積が最も稀少なので、その売り場面積が最も効率的に使われるように他の資源を組み合わせるのが最も利益を生み出すことができる。

     ROEの最大化の背景には、資本が最も稀少であるという暗黙の前提条件が含まれている。確かに、戦後何十年にわたって資本が最も稀少が経営資源だった。人はたくさん余っていたからである。

    しかしながら、現在、資本は昔ほど稀少なものかどうか?

    資本は他の資源によって代替不可能なものかどうか?

    現在、企業にとって最も稀少な資源は何なのか?

     例えば、生産するのに、労働力、物的資産、資本、イノベーション資産の4つが必要とした場合に、多くのおいては、イノベーション資産が最も稀少となっているケースが多い。

    したがって、イノベーション資産が最も効率的に使われるように生産資源を組み合わせる、そのような組織体制を作るのが企業にとって正しい答えとなる。

     あまりに長く資本が最も稀少な資源であり、ROEが信奉されてきたが、実はそれは既に間違いである可能性が高いのだ。