2015年6月23日火曜日

ESG投資の推進の鍵は?


 ニッセイアセットマネジメントの井口さんのお話を伺う機会があった。井口さんはニッセイアセットマネジメント社内でESGレーテイングを推進しており、投資における非財務情報の活用では日本の第一人者である。

 基本的なフレームは、「短期では財務情報が重要だが、長期では非財務情報の重要が高まっていく。だから、非財務情報をどう評価、判断するかで投資パフォーマンスに大きな影響を与える」というものである。このために、ESG情報の活用を重視している。ニッセイアセット自体が5年スパンの長期投資が主であることも影響している。

 ESG情報の有用性の証明は、そのレーテイングの違いによって、投資パフォーマンスに統計上優位な違いを出すというのが1つの証明方法である。ニッセイアセットマネジメントで実際に、社内のESGレーテイングでは、レーテイングが高い企業群が財務(ROE)も、株価パフォーマンスも高かったという実証結果を示している。
 面白い点としては、環境、社会、ガバナンスも企業価値にプラスかどうかという直接的な質問でレーテイングをしている点である。井口さんはKPIの重要性を認めつつも、あまりKPIに囚われると、評価基準を作り、形式主義に陥ってしまう弊害も指摘されている。

 今後、スチュワードシップコード、コーポレイトガバナンスコードの施行など、日本でESG情報の活用がさらに高まっていくことが予想される。しかしながら、単にESG情報だけではESG投資を促すことにはならないだろう。今回お話しを伺っていると、そのESG情報をどう解釈、評価するか、財務情報とESG情報を結びつけ投資判断につなげていくESGアナリストの役割が一層求められているだろう。

2015年5月20日水曜日

これからの企業アナリストに求められること

 統合報告書のスタート、日本スチュワードシップコードのスタート、コーポレイトガバナンスコードもいよいよ今年の6月からスタートとなり、投資家と企業がより意味ある関係性をいかに構築できるかが試されるようになってきました。

このような環境変化にともにない、企業アナリストの役割も変わって行く必要があるのだと思います。

 これまでのアナリストの役割は、その企業の財務情報を分析して将来株価があがるかどうかを予測すること。これに対して、これからのESGアナリストの役割は、財務情報だけでなく、非財務情報も活用して、そのつながりから将来株価があがるかどうかを予測するとともに、企業活動の社会や環境への影響を評価し、その企業が本当に社会に価値をもたらしているかどうかを評価することではないかと考えます。

そういう意味では、企業アナリストはESG的視点、ESG分析をもたなければならないと思います。

ただし、財務情報と非財務情報は水と油のようなもので、そのままでは、うまく分析することができない。財務情報は定量データが主、非財務情報は定性データが主です。ですから、いかにこの2つを統合して分析できるかという「統合的思考」が、企業アナリストにも求められるのではないかと考えます。

例えば、以下のような質問に、企業アナリストはいかに答えることができるか?

  • どのESG要因(環境、社会、ガバナンス)がその企業にとって重要なのか? その理由は何か? その企業のESG要因はどの程度将来のリスクとつながっているのかどうか? 
  • その企業のESG要因は、その企業の財務情報にどのようにつながっているのか? ESG要因の改善は財務のパフォーマンスにどの程度つながるのか?
  • ESG要因の中で、その企業に重要なKPIはなにか? その理由は何か? どのような前提があるのか?
  • その企業は、ESGパフォーマンスと財務パフォーマンスが両立しているのかどうか?
  • その産業セクターの中で、どの企業のESGパフォーマンスと財務パフォーマンスが両立している企業なのか? etc


2015年5月14日木曜日

ESG投資を考えてみる

ESG投資を考える上で、よく参考にするのが、ロバート・エクレス氏のHBR 2013年9月「ESGパフォーマンス、持続可能な指標」という論文である。ちなみに、Eは環境、Sは社会、Gはガバナンスである。HBSのエクレス教授は、統合報告、SASB等での活躍されている方である。

すべての企業が持続可能性と事業の両立がまさに課題となっている中で、どうやって両立していくかが課題になっている。

この論文の趣旨は、
ESGパフォーマンスと財務パフォーマンスは、基本的には両立しないけど、製品やプロセス、ビジネスモデルにイノベーションがあれば、両立することが可能である、ということである。

これは、当たり前といったら当り前な話。

では、次の問いは、「どうしたら、ESGパフォーマンスと財務パフォーマンスを両立するそのイノベーションをおこすことができるか」である。

エクレス氏は、次の4つのステップを提示している。

①重要なESG要因を特定する(マテリアリテイの特定)
         ↓
②財務パフォーマンスとESGパフォーマンスとの関係を定量化する
         ↓
③製品、プロセス、ビジネスモデルを変革する
         ↓
④会社のイノベーションをステークホルダーに伝える

 現段階では、日本の企業の多くが①の段階、②ができている企業はほとんどないのが現状である。②は、海外でも、SAP等先端企業が②を統合報告書で示している。この部分が統合報告書でも求められる「統合思考のエッセンス」とも言える部分だろう。


2014年12月9日火曜日

実は、ムハマド・ユヌスさんはCSVに否定的。その理由は、、



ノーベル平和賞を受賞した、グラミン銀行総裁のムハマド・ユヌスさんは、CSVについてこのように予想しています。

「おそらくCSVは、CSRの域をわずかに拡充した程度で終わるのではないかと見ています。つまり、本当の意味で社会問題の解決に心血を注ぐビジネスにはなりえない。

ガーン。CSVをどのように企業にとって実現可能な概念、ツールにしようかと考えていた私にとってはショッキングな発言でした。

しかし、考えてみればユヌスさんにとってはごく自然な考え方だと思います。

ユヌスさんはソーシャルビジネスの7原則を掲げています。その原則の1つに、投資家は元本までしか回収できない。それ以上の利益は社会課題を解決するためにビジネスに再投資されるという考え方を持っています。

NPOでなく、企業でなく、ソーシャルビジネスで社会課題を解決しよう、そして解決できるという考え方には、以上の原則が含まれています。

NPOや企業という法的な形態ではなく、この原則を貫けるかどうか? 上場企業であればすごく難しいでしょう。これくらいやるメカニズムと心意気がないと社会課題は解決されませんよ、というユヌスさんのメッセージだと思います。
そういう意味では、企業のCSVはこのソーシャルビジネスの条件を全く満たしていません。

日本企業でも、グラミンと雪国まいたけやユニクロがジョイントで会社をつくって事業をやっていますが、今度どの程度成功するかが注目されますね。

ユニクロはCSV企業? ブラック企業?


今月のHBRで、ユニクロの柳井会長が、世界一の企業を目指すのであればCSVは当然であると喝破している。

この主張に違和感を覚えるひともいるだろう。

ユニクロは、5年以内に約半分の社員が辞めてしまう、いわゆるブラック企業であるという批判を浴びた企業であるからだ。

ブラック企業とCSV企業は果たして両立するのか?

CSVの定義が曖昧なので、会社側はCSVと主張しても、世間ではそうは考えないようなことがよく起こる。

公平を期すと、ユニクロの障がい者雇用比率は非常に高いし、ブラック企業批判の後は、社員の正社員化を進めたり、地域雇用で店長への過度の負担を軽減している。


我々は企業のソーシャルインパクトを25のKPIによって、重要度と開示度によって最適ウエート付けしてソーシャルインパクトを定量化している。この手法で企業群を明快に3つに分類することが可能になる。この手法によると、ユニクロは、従来型ブラウンカンパニーからグリーンカンパニーに近づいていく途上にあると捉えることができる。

CSV企業かどうかはを評価するには、ソーシャルインパクトを定量的に評価測定できるかがポイント
となる。