2012年7月26日木曜日

ユヌス博士のソーシャルビジネスの核心は所有形態にあり



「資本主義の新しい潮流に向けて」というシンポジウムに参加した。ユヌス博士、原丈人さんなどがパネラーとして参加した。

 今回私が感じたのは、資本主義はどうかという抽象的なレベルの議論では生産的な議論はおこなうことは難しいということである。皆さん、いろいろと資本主義については博学なのだが、残念ながら、ゾウのしっぽをなでる議論が多いのである。

私は資本主義という抽象を議論するのではなく、
 ずばり、
経済活動をおこなう主体の所有形態の違いにフォーカスするのがいいと思う。

この部分が、資本主義の核、エンジンだからである。

所有形態→生産→交換(市場メカニズム)、調整という流れとなる。

通常の資本主義(A)とユヌス博士のグラミン銀行(B)の違いをみてみる。

通常の資本主義(A

  • 企業を株主が所有
  • お金を多く出した人が決定する権利をもつ、残余利益の請求権をもつ
  • 所有が利益をあげるインセンティブを与える。
  • その結果、負の外部性が生じても、規制にひっかる+みつからない限りはその外部性に対するペナルテイはなし


グラミン銀行(B

  • 銀行の所有者を貧困者、お金の借り手が所有する
  • お金の借り手が評議員を選出する、お金を多く出した人が決定権をもつわけではない
  • 結果、もともとの目的である、貧困撲滅を達せるように、借り手に配慮した経営がなされる
  • 結果、負の外部性の低い、公益を考える、コミュニティベースのガバナンスシステムとなっている
  • グラミン銀行は、所有権、お金を出した人がすべてを牛耳るのではなく、コミュニティベースのガバナンスシステムを維持しているのである。

経済学は、経済ガバナンスメカニズムとして、市場と組織を想定する。このグラミン銀行はその中間型組織(コミュニティベースのガバナンス)として位置づけることができるように思う。この核には、所有形態の違いが大きな影響を与えているのである。

この文脈で、はじめて、ユヌス博士がソーシャルビジネスは投資家は元本のみの回収に制限している意味を理解することができるのである

2012年7月25日水曜日

ワタミがやっているのはソーシャルビジネスか、それともアンチソーシャル?


 ワタミの渡邉会長とユヌス博士がソーシャルベンチャーファンドを作ることを発表した。

ワタミは従業員の労働環境が劣悪であることから、この会社の評価はネット上でも賛否両論が渦巻いている。

 2008年に入社2カ月の新入社員が自殺し、長時間労働によるストレスが原因だったとして、神奈川労働者災害補償保険審査官が労災適用を認めた。

ワタミの渡邉会長が進めているのは本当にソーシャルビジネスなのか? 

ユヌス博士はソーシャルビジネスの7原則を掲げている。
この7つの原則を満たさなければ、ユヌスさんの言うソーシャルビジネスとは認められないのだ。
  1. 経営目的は、利潤の最大化ではなく、人々や社会を脅かす問題を解決することである
  2. 財務的・経済的な持続可能性を実現する
  3. 投資家は投資額のみを回収尾できる。投資の元本を超える配当は行われない
  4. 投資額を返済して残る利益は、会社の拡大や改善のために留保される
  5. 環境に配慮する
  6. 従業員に市場賃金と標準以上の労働環境を提供する
  7. 楽しむ 
ソーシャルビジネスは結果のために手段を選ばず、ではない。それは従来のビジネスでありがちであった。従来のビジネスは結果のために手段を選ばずという側面があり、効率性を追い求めすぎる結果、時としてはそれがアンチソーシャルになることがある。

たとえ、ソーシャルビジネスで社会的な課題を解決するという、崇高な目標を掲げたとしても、その過程(プロセス)の中で、環境や従業員を踏みつけにしたら、何も意味がないし、何も残らない。

ワタミの渡邉会長は自らがおこなっていることを、その過程(プロセス)においてソーシャルビジネスでありアンチソーシャルではないことを証明する必要があるだろう。

2012年7月24日火曜日

ソーシャルビジネスのビジネスモデルの評価


 ソーシャルビジネスは創業者の熱い想いが先行して、なかなかビジネスモデルという思考法に思い至らない面がある。

ソーシャルビジネスの中で、創業者の思いが周りの人の共感をよぶ団体はたくさんある。しかし、ビジネスモデルと言うべきものが無い団体も多い。

ソーシャルビジネスはマネタイズが難しいので、通常のビジネスより、よりビジネスモデルをよく考える必要があると思う。

私はソーシャルビジネスのスケールアウトの方程式として、以下の方程式を掲げている。

①創業者の想い×②周りの共感力×③ビジネスモデル

創業者の想いが周りに伝播して共感を生み、無償の経営資源を集めることができる。そして、その経営資源を効果的、効率的に使うことで、ステークホルダーに価値を生み出し、その価値がマネタイズされる。

もう1つの方程式は
①共感力×②価値創造力×③マネタイズ力
となる。

今後、ソーシャルビジネスの代表的な団体を15団体くらいセレクトし、ビジネスモデルの分析をして、本にして出版したいと思っている。「SB向けのビジネスモデルジェネレーション」

ビジネスモデルを評価する視点としては、
   ステークホルダーに大きな価値をもたらしているか(効果性)
   類似の価値を提供うる他のビジネスモデルと比べて効率がよいかどうか(効率性)
   競合、新規事業者にとってどの程度模倣が難しいか(模倣困難性)
   そのビジネスモデルは長期的に持続しうるかどうか(持続可能性)
   将来の発展可能性、展開力をどの程度もっているかどうか(発展可能性)
などの観点が挙げられる。

2012年7月23日月曜日

社会的企業の投資モデルの有効性?



ムハマド・ユヌス博士が来日しており、その著書「ソーシャルビジネス革命」を読み返してみた。その中で、ユヌス博士はソーシャルビジネスに対する投資の必要性や有効性に関して触れている。

このテーマは私も非常に関心がある分野である。

寄付と投資によって何が変わるのか?
果たして、寄付と投資によって、社会的なインパクトにどう違いが生じるものなのか? 

Acumen fundBOCOThe Best Available Charitable Option)は寄付と投資の社会的なインパクトの差の大きさをもって、投資モデルの有効性を説明している。

私は、この寄付と投資の違いは、その概念の違いよって差が生じるわけではなく、その前提条件の違いによって差が生じるケースがありうるものと解している。(何のことだかわかりませんよね、、もう少し説明させて下さい)

実際に、社会的投資と唄っても、金銭的リターンが充分に生まれるわけでもない。むしろ、事後的に金銭リターンが生まれない可能性が大きいことを理解して投資して下さいというエクスキューズに使われているケースが圧倒的に多い。

仮に、元本が全部返済されなかったら、そのお金の寄付と投資の資金フロー的な違いは事後的には生じなかったことにもなる。

ケース1
投資家→投資先に資金が移動→投資家には戻りはなし。以上(笑)

ケース2
寄付者→寄付先に資金が移動→寄付者に戻りはなし

ケース1とケース2では資金フローに違いは生じない。

うまくその投資プロジェクトが金銭リターンを生じたら、それがまた投資家に戻ってきて、さらに別の社会的な投資プロジェクトに有効に投資されたら、その社会的なインパクトは寄付の場合に比べてはるかに高くなる、乗数的な効果を生むことは理論的にはありうる。

ケース3
投資家→投資先に資金が移動→投資家には戻り→再投資→投資先に資金が移動→戻り→(乗数効果)→

社会的なインパクトの大きさ
大(うまくいった投資モデル)>>>>> 小(失敗した投資モデル=寄付) 

社会的なインパクトという観点では、成功した投資モデルは大きな社会的なインパクトを生むが、失敗した投資モデルは寄付と同様に小さな社会的なインパクトしか生み出さない。


ただし、この説明だと、きっちとお金が返ってくるところ、逆に敷衍すれば、ソーシャルリターンが低いところにお金を出すのが社会的インパクトを高めるという面があるので、経済的リターンと社会的リターンの統合した評価軸が必要だろう。

また、寄付と投資のお金が投じられる領域の違い、役割の違い、などの議論がありうる。社会的投資の意義は、通常の民間金融機関が出しにくい分野にお金を出せるというところが価値が高いところでもある。日本でも震災直後は、緊急的支援に寄付が必要だったが、ある程度メドがたって、復興段階に入ったら、より多くの資金を引きつけるため、投資モデルを取り入れるべきだという議論もある。









2012年7月22日日曜日

実は、戦後の日本株式会社はソーシャルビジネスだった



 ノーベル平和賞のムハマド・ユスス氏が来日している。
ユヌス博士は、ソーシャルビジネスを2種類の定義をしている。

タイプ、社会的な課題の解決に専念する「損失なし、配当なし」の形態で、投資家は元本以上のリターンを得ることはできない。投資家は元本以上を得られないので、要求リターンは低いので、社会的課題の解決の投資が活発に行なわれる。

タイプⅡは貧しい人々が所有する営利会社だ。直接所有される場合も、特定の社会的な目標に専念するトラスト(信託機関)を通じて所有される場合もある。グラミン銀行はタイプⅡのソーシャルビジネスに分類される。

日本は、戦後から80年代前半までは、猛烈な勢いで成長した。今とは違い、雇用が社会的な問題になることなどなかった。

考えてみると、日本の80年代前半までの期間は、ユヌス博士が言うところの、日本株式会社はタイプⅠのソーシャルビジネスをやっていたのだ

投資家は元本をそのまま寝かしつけて、投資回収をおこなわなかった。結果、再投資されて、最大の社会的課題である雇用問題を見事に解決することができていたのだ。

今、日本は様々な社会的な課題に囲まれている。

もう一度、様々な社会的課題を解決するために、ソーシャルビジネスをおこすべきではないのか?

そのための原理は、タイプⅠのソーシャルビジネスになるだろう。