2012年9月29日土曜日

ファンドレイジングの価値方程式


 ファンドレイジングをしたいのですが、どうしたらいいですか? とよく聞かれます。私が考えたフレームワークを1つご紹介します。ファンドレイジングの価値方程式という考え方です。ハーバード大学のサービス業の権威の方の考え方を応用したものです。

 寄付は、基本的には、お金の出し手にとっては投資になります。ですから、お金を出して得る結果とコストを比較して、お金を出すかどうかを決めます。 その結果/コストが高いほど、お金を出してくれやすくなります。

方程式は以下のようになります
ファンドレイジングの価値=(ステークホルダーにとっての「結果」+サービス提供のプロセスのクオリティ)/(寄付金+手間時間コスト)

分子は(ステークホルダーにとっての「結果」+サービス提供のプロセスのクオリティ)
分母は、(寄付金+手間時間コスト)になります。

 例えば、大成功しているTRABLE FOR TWOの例で考えてみましょう。
この団体は20円でヘルシーな食事が楽しめるとともに、その20円が途上国の給食1食分になるというサービスをおこなっています。

このサービスをファンドレイジングの価値方程式にあてはめてみます。

ステークホルダーにとっての「結果」=途上国の給食1食分+ヘルシーな食事メニュー
サービス提供のプロセスのクオリティ=食堂がちゃんとやってくれます、説明資料など
寄付金20
手間時間コスト=いつもと同じように食堂で対象となるメニューを選ぶだけ、寄付金はその中に入っています、お財布をわざわざ開ける必要もありません。

途上国の給食1食分+ヘルシーな食事メニュー/20円+ほとんど0になります。
この方程式で、多くの人にとって、少し意識の高い人にとっては、「いいじゃん、これ」になります。

他に、 サービス提供のクオリティは以下の5つの要素と関係があります。結果そのものは変えれなくても、以下の5つでいろいろとサービス改善の余地があります。
 
①信頼性=担当者が約束を守っているか?
②即応性=タイミングよくサービスが行われたか?
③権威性=サービス提供の過程で、ステークホルダーに信用してもらうことができたか?
④共感性=ステークホルダーの視点でサービスが行われたか?
⑤実証性=サービスが行われたという実績、証拠?

以上の視点をもって、自団体のサービスを向上させてみてください。できるだけ高い、ファンドレイジングの価値方程式を達成するためにはどうビジネスモデルを変える必要があるかという視点も重要だと思います。

2012年9月28日金曜日

ROEを高めることの「社会的コスト」


 ROEの問題点を考えている過程で、ROEを高めることによる「社会的なコスト」という考え方にたどり着きました。これは、現代ファイナンス理論では無視されてきた部分でもあり、今日の資本主義を改めて考える上で重要な概念になるのではないかと考えています。

 例えば、企業は負債レバレッジを高めることでROEを簡単に高めることができます。負債を増やすメリットは負債による節税効果が働くことです。反対に、負債レバレッジを高めるデメリットは、直接的、間接的な倒産コストを高めることです。例えば、倒産コストが高まった場合、メンテナンスやサービスの質が低下することで、顧客がデメリットが生じることがあります。

 現代ファイナンス理論では、この2つのメリットとデメリットを比較して、ぎりぎりまで負債比率を高めることが企業価値を最大化すると教えています。

しかしながら、負債による節税効は株主がフルにそのメリットを享受できます。これに対して、コスト負担は一部を株主が負担するだけです。つまり、実は、ここに外部性が生じているのです。

 つまり、ROEを高めるために負債比率を高めることで、株主以外が負担する「社会的なコスト」の発生があります。まず、負債による節税効果は、政府の税金が減ることによる社会的コストが生じています。また、倒産コストは株主が一部を負担しますが、他のステークホルダーが負担するコストもあります。

簡略化すると、
株主にとっては、以下のような損のない賭けゲームになります。

ケース1 負債を高める→ROEを高めることに成功→成功した場合は株主が全てのメリットを得る
ケース2 負債を高める→失敗し倒産する→失敗したコストの一部を株主が負担

この社会的コストが実は無視できない大きなコストになっている場合、ROEを高めることが、リターンは自分が独り占めし、コストを他のステークホルダーに付け回すという構造になります。


公益資本主義の評価指標作り


 デビット・ジェームズ・ブルナー氏が書いたものをいくつか読んでみた。彼は、アライアンス・フォーラム財団の研究員で、公益資本主義に関して研究している。

主張はほぼ納得いくものだった。ダグラスノースなどの研究バックグランドが自分と似ている。

 資本主義の行き詰まりは、株主の力が強くなりすぎたことに原因がある。その結果、ステークホルダー間のゼロサムゲームになってしまっている、とういう分析だ。

 では、ゼロサムゲームからプラスサムゲームにどうやったら転換できるか? 様々なステークホルダーの協調を促す、良質の制度を設計する必要がある、というのが彼の解答である。

 分析のベースは米国のものだが、今の日本企業に当てはまる部分も多い。典型的にはソニー、パナソニック、シャープ等、かつて栄華を極めたかつての日本の優良企業を思い浮かべるといい。

ゼロサムゲームどころか、一部ではエンドゲームにもなりつつある企業もある。

 ブルナー氏は、公益資本主義は3つの条件、公平性、持続可能性、改良改善性が必要と考えて、新しい評価手法が必要という主張もしている。。

私は、持続可能性の評価指標は既に開発したので、残りの2つの評価手法を開発したいと思う。トレードオフ関係がある状態をどう定量化するかという部分の難しさはあるが、それほど難しい作業ではないと思う。






2012年9月27日木曜日

ROEに関わる誤謬を解く 企業とは何か?


ROEに関わる誤謬を解く 企業とは何か?

 これまで長い間、ROEが最も有用な投資尺度の一つであると認識されてきた。私は、この誤謬を解いていきたい。ROEが有効であるには、様々な前提条件があるのだ。今や、その前提条件が大きく崩れている。


まずは、企業とは何かを考える必要がある。

 経済学で、企業とは何かと問われたら、「企業=契約の束」となる。すなわち、株主、経営者、従業員、取引先、債権者との契約の集合体、契約のフォーカルポイントが企業であると定義される。

 ただし、企業は無条件に契約が結べるわけではない。通常、契約は不完備であり、不確実性がある現実世界では、契約を結ぶ前に、信頼がないと契約を結ぶことはできない。

こう考えると、「企業=契約の束」ではなく、「企業=信頼の束」なのである。様々なステークホルダーからの信頼、好感、コンテクストが、企業ソーシャルキャピタルが企業の本質なのだ。

こう考えると、金融工学的に、ROEを高めるために負債レバレッジを高めること、それに失敗したら倒産させてまた新しい作るという発想は全くナンセンスであることがわかる。

倒産とともに、企業は信頼を失ってしまうからだ。 同じようにお金を調達して物的資本を調達しても、失われた信頼は取り戻すことができない、もしくはそのコストが非常に高くなるからである。

2012年9月26日水曜日

ケアプロの成功に隠されたレシピ


私は、ソーシャルイノベーションを、「企業や組織団体が生み出す経済的利益と社会的利益を大幅に高めること」と定義しています。

ソーシャルイノベーションはある意味で結果なので、その結果を生み出す源泉として、「企業ソーシャルキャピタル」に注目しています。

企業ソーシャルキャピタルとは、「企業とステークホルダー間の信頼、好感、コンテクストの強さ」を示したものです。

株主のみならず、顧客、地域住民、債権者、市民など、企業や組織を取り巻くステークホルダーの後押しが企業の成功の裏には隠されています。

ソーシャルイノベーションの裏には、この企業ソーシャルキャピタルが大きな役割を果たしているケースが多く見られます。新しいベンチャーが成功するにはこのステークホルダーからの信頼、企業ソーシャルキャピタルが重要になります。

 例えば、ケアプロさんも、行政、自治体の協力や後押しを得ようと、頑張っていらっしゃいます。また、様々なマスコミで取り上げられることで、様々な支援者を得ていらっしゃいます。このようなステークホルダーからの好感、協力が、ケアプロが事業を進める力となっていることは明らかです。

この企業ソーシャルキャピタルを定量化したものが、企業ソーシャルキャピタル指数®
になります。

ソーシャルインパクト指数®はソーシャルイノベーションを測る指標であり、企業ソーシャルキャピタル指数®はそのソーシャルイノベーションの源泉を測る指標になります。この2つの指標を使うことで、信頼の可視化、信頼に基づく科学的経営が可能になります。




2012年9月25日火曜日

ケアプロのソーシャルバリューの定量化


昨日、ケアプロの川添社長のお話を聞いて、改めて、ソーシャルイノベーションをどう測るか?を考えさせられた。

企業が生み出す価値には2種類ある。

お金を儲けるという経済的価値と、
社会にどう便益をもたらすかという社会的価値である。

ケアプロの場合の社会的価値は、生活習慣病を早期に発見して対処することができることの価値と、国や地方自治体の医療費を予防によって削減できる価値が生じている。

企業が、直接お金になるのは経済的価値だけである。

企業は経済的価値と社会的価値をどうバランスさせていくべきか?
実は、この手の難しい意思決定は様々な所で生じている。例えば製薬メーカーがAIDSに効く薬を途上国にいくらで提供すべきか?など。

この意思決定には、まずは、社会的な価値、ソーシャルバリューを定量的に算出することが必要となる。

ソーシャルインパクト指数という考え方を用いることで、
   社会的課題の深刻さ 
   社会的投資対効果 
   波及効果 
   スピード
   経営基盤
の5つのファクターよって、ソーシャルバリューを定量化することができる。

今後、企業はますます自社がもたらす社会的な価値を可視化し、経済的価値と社会的価値をバランスさせて意思決定することが求められていくだろう。





ソーシャルビジネスと広告ビジネスの類似点

ソーシャルビジネスと広告ビジネスはある意味では近い面がある。どこが?と思われる方も多いかもしれないが。

ソーシャルビジネスはサービス受益者とお金の支払い手が異なるケースが多い。

広告ビジネスも、例えば地上波テレビは消費者がサービス受益者だが、お金を支払うのは企業スポンサーであって、サービス受益者の消費者ではない。

この違いがあるために、企業がスポンサーになるかどうか、企業スポンサーがいくら支払うかは、間接的な指標に基づいている。それは、視聴率である。

ソーシャルビジネスではこれはソーシャルインパクトにあたる。
企業の社会的インパクトを用いて、ステークホルダーからお金を出してもらう必要がある。

企業のインパクトを、経済的価値と社会的価値で捉えると、フリーにすることで、直接的な経済的価値はゼロになるが、社会的な価値はその分、多くの消費者が視聴者になることになって高まる仕掛けである。

視聴率という指数も、もともとはそれほど信頼性が高いものではないが、長く使われていることで一定の信頼を得ている。

これから、ソーシャルインパクトという指数も、信頼を得ることができるだろうか?

2012年9月24日月曜日

ケアプロのビジネスモデル


 今日は、ケアプロの川添社長を交えてソーシャルビジネスのワークショップをおこなった。例によって、私が考案した、ソーシャルビジネスのフレームワークを用いた。

 ケアプロは株式会社形式でやっており、サービス受益者からサービス対価のお金をもらうのが基本であり、ソーシャルビジネスの中でも通常のビジネスに近い。

私の関心は、企業がどうやってソーシャルイノベーションをおこすか?である。

ソーシャルイノベーションは、経済的価値と社会的価値の大きさであり、
 株主に対する価値と、その他のステークホルダーに対する価値にわかれれる。

 ケアプロはこれまでに10万人(累計)の検診をおこなっているがサービス単価500円という単価の安さから、経済的価値はまだそれほど大きくはない。

 しかしながら、生活習慣病等の予防がもたらす社会的価値は金銭換算するとものすごく大きくなる可能性がある。確率的な社会的な価値の発生が見込まれるのだ。

また、検診者ストックとそのデータがある。このデータが将来価値をもつかもしれない。

ソーシャルビジネスのポイントはソーシャルバリューをいかにマネタイズするモデルを構築できるかだ。現在、ケアプロはまだソーシャルバリューをマネタイズは不十分である。
1コイン検診をウリにしているが、1コイン500円はコストであって、検診者の価値ではないのだ。行政、自治体が予防検診の正当な経済価値を評価したら、そのソーシャルバリューをもとにしたプライシングをして、ソーシャルインパクトボンドのような金融債券が可能になるかもしれないのだ。10年タームでみれば、その可能性は少なからずあるのではないか?



公益資本主義の条件とソーシャルイノベーションの関係



 原丈人さんは公益資本主義を3つの条件、即ち「富の分配の効率性」、「企業の継続性」、「改良改善性」で定義している。この3つの条件は、マクロ的な観点の捉え方である。私が主張する、ソーシャルイノベーション、即ち、企業の目的関数を「経済的便益と社会的便益の両方にすること」はミクロ的な観点からの捉え方である。



富の分配の効率性と企業ソーシャルイノベーション
 原さんは大企業CEOと一般社員の賃金格差を例に挙げている。これはステークホルダー間の分配の公平性、効率性に関する議論である。企業のソーシャルイノベーションにより、経済的便益と社会的便益が高まること、すなわちステークホルダーの分配可能なパイを増やすことにより、富の分配の効率性は高まることが予想される。

「企業の継続性」と企業ソーシャルイノベーション
 内部留保の増やすことはROEを下げるので株主には短期的にはマイナスであるが、他のステークホルダーにはプラスになりうる。企業のソーシャルイノベーションにより、経済的便益と社会的便益を高めることは、広い意味で企業の継続性、サステナビリティを高める。ただし、短期的に損を被る株主を納得させるには、短期の損が長期的には得になるという期待や、ステークホルダーからの信頼が必要となる。

「改良改善性」と企業ソーシャルイノベーション
 改良改善による製品開発、品質向上、生産工程の改善、さらには「安心安全を維持する要素など」を含む。これは、まさに企業ソーシャルイノベーションそのものである。株主に対する経済的便益を追求するとともに、他のステークホルダーの社会的便益も同時に高めることがソーシャルイノベーションだからである。

観点を変えると、

 企業が目的関数をソーシャルイノベーション、経済的便益と社会的便益をともに高めることは、公益資本主義の必要条件であり、原さんの主張される、3つの条件は、十分条件と考えることができます。

 したがって、私の企業ソーシャルキャピタルをもとにしたソーシャルイノベーションの大きい会社を、さらに、原さんの3つの公益資本主義の条件で選択することで、公益資本主義の企業群を選定できると思います。