2012年6月15日金曜日

社会的企業のレポーティング(NPO法人コペルニクを題材に)



 前回ブログで、社会的企業のレポーティングについて論じた。今回は、NPO法人コペルニクを題材にして、具体的に社会的企業のレポートを作成してみたい。

 ソーシャルインパク・トリサーチ社では、独自に社会的なインパクトを測定するソーシャルインパクト指数®を開発している。ソーシャルインパクト指数®5項目から構成される。

ソーシャルインパクト指数®の構成要素
①社会的課題の深刻さ
②投資対効果
③波及効果(地域、産業への影響)
④スピード(社会的課題が解決されるスピード、ボトルネック)
⑤経営基盤、持続性

NPO法人コペルニクの分析

①社会的な課題の深刻さ
 当団体が取り組むのは、途上国の貧困撲滅である。人の命、その緊急性に関わるということで、社会的な課題の深刻さは非常に高いと考えられる。

②投資対効果
 投資と効果をわけて考える。この効果は、経済的な利益のみならず、社会的な利益を含んだものである。実数で示すこともできるが、今回は5段階の指数のみ示すことにする。
 投資は、当事業はプラットフォームビジネスで、途上国NGOと寄付者を結びつける形で、それほど大きな投資金額が必要なわけではない。
 効果は、テーマの魅力度とその実現力からなる。寄付によって集めたお金を用いて。テクノロジーが途上国の人たちのウェルフェアにどれだけ役立てるものであるかである。ただし、それが実現されるかどうかは、寄付者がどれだけ集まるに依存する。当団体はまだ寄付者を集める力には弱い。

③波及効果(地域、産業への影響
 途上国で、ある1つのテクノロジーが有用であることがわかれば、そのテクノロジーは他の地域でも展開することができる。その意味では、スケールアウトがしやすい構造にある。

④スピード
 当社が社会的課題を解決できるかどうかは、寄付者をどのくらい集められるか、そのスピードに依存する。それが事業拡大のボトルネックとなる。

⑤経営基盤、持続性
 大和証券レポートにあるように、当団体の収益は寄付金の手数料からなり、寄付は1億円程度で、まだ運営事務コストをやっとまかなえるかどうかという水準であり、経営基盤は脆弱である



 ダイヤモンドの形をみると、社会的な課題は高いが、投資対効果が弱い。それがスピード、基盤の弱さにつながっている。その点がクリアーできればスケールアウトしやすい構造でありスピードを高めることができる。

 総合的にみると、コペルニクは社会的なインパクトはまだ弱い段階と言うことができる。その弱さは、寄付を集めるパワーが弱い点に起因する。これがスタートアップの一時的なものか、それとも構造的なものかの見極めが重要である。戦略的には、①寄付をもっとパワフルに集める仕組み、仕掛け作りをする、もしくは、②寄付に依存しない形のサステナブルなビジネスモデル作りを目指すべきだろう。
  
寄付対象と寄付者のつながりは直接、ダイレクトではなく間にNGOが入るインダイレクト型でありkivaに近い構造である。寄付対象がテクノロジーという形になることで、人を助ける要素が見えづらい点が、寄付を集める力の弱さに影響しているのではないかと推測される。

2012年6月14日木曜日

社会的企業家をアナリストはどう料理すべきか?


社会的企業の分析レポートを大和証券で公開している。
http://www.daiwa-grp.jp/csr/citizen/support/college/ 
社会的企業として有名な、HASUNA、マザーハウス、米国NPO法人コペルニクなども入っている。

社会的企業のアナリストレポートは意欲的な取り組みだが、まだ試行錯誤であろうと思う。上場会社のアナリストレポートは投資家向けのものであるが、社会的企業のレポートは誰のためのものなのか、まだまだはっきりしない面もある。

レポートの項目は、①解決を目指す社会的課題の重要性、②社会的課題とミッションの妥当性、③ビジネスモデル、④持続可能性など。

社会的課題→ミッション/ビジョン→解決手段としてのビジネスモデル→持続可能なレベルで収益をあげられるか? という流れである。

一歩下がって考えてみると、
社会企業家はなぜ、自分たちを「社会企業家」としてブランディングしているのか?

おそらくは、
自分たちは、経済的価値、利益を第一優先として活動していないということをアピールする意図がある。

経済的利益を第一優先とせずに、社会の課題を解決すること、すなわち社会的価値を高めることを自分たちは目指しているという意見表明である。

したがって、社会的企業を評価する際には、単に売上、利益をあげている、だから、持続可能か否かを論じるのではなく、

社会的課題はその団体の活動によって本当に解決されているのか、その社会的なインパクトをもとに評価する必要があるのではないか?

また、社会的なインパクトを本当にあげられていたら、必要な資源(寄付、出資、プロボノ、ボランティア)は集まってくるという楽観的な見方も可能である。

社会的なインパクトをあげられれば、たとえ利益をあげる見込みがなくても、持続可能なビジネスモデルになりうるのである。

また、社会的なインパクトが示されることで、社会的企業のレポートは誰のためのものなのかを一部解決することができる。社会的なインパクトを与える影響範囲のステークホルダーはそのレポートの読者になりうる。

この両方の観点から分析することで、社会的企業家も本望(ほんもう)ではないか? 

2012年6月13日水曜日

国民が望んでもいない原発が建設される「金融のカラクリ」


 グリーンピース主催の「原発の投資リスクと自然エネルギー市場の可能性」セミナーに参加した。いろいろとインスピレーションを頂いた。

 私の問題意識は、「何故、資産的にはハイリスクな原発がローリスクハイリターンの金融資産に変換可能なのか?」である。

 原発という資産的にはハイリスクなものが、福島原発事故前までは、東京電力の株式は安定的な配当の高い高利回り金融商品として高齢者に人気を博してきた。

Aハイリスクな資産→B □□→C ローリスクハイリターンな金融商品

B □□のメカニズムはどうなっているのか?

どうしたら、ハイリスクな資産がローリスクハイリターンな資産に変換が可能なのか?
ノーベル賞をとったモジリアニ=ミラーのMM定理に明らかに反しているではないか! 金融市場ではノーフリーランチである。誰もただでリターンを得られないのだ。

答えは、Bの変換過程で、リスクを根こそぎとってくれる投資家が存在したからである。

それが生命保険会社である。日本生命は電力関係に1兆円の巨額投資をおこなっていた。

原発を支える金融メカニズムは、構造的には、優先劣後構造になっていたのだ。つまり、生命保険会社が劣後出資者として高いリスクをとり、残ったリスクを劣後出資者として個人投資家がとるという構造である。国民にはローリスクハイリターンの投資で一見いい話のようにみえるが、、、

この問題は、国民が原発を望んでいないのに、生命保険会社が高いリスクをとることで、原発建設が可能となり、国民の意に反してしまうことである。そして、国民も電力会社の株式を購入することによって、原発建設に意図せずして加担させられてしまっていたのだ。

通常、株式会社であれば、株主になることによって、国民は国民の意を実現することができるが、
 
生命保険会社は、相互会社であり、公開もしていないから、株主にもなれないのだ。

この構造が、国民が望まない原発が建設されるメカニズムであり、
国民が原発建設に反対しつつも、意図せずして加担させられてしまうカラクリだったのだ。

被災地起業家支援事業の費用対効果の測り方


 内閣府の事業仕分けで、被災地起業家支援事業の廃止決定が波紋を広げている。

 廃止決定の主な理由は、①予算規模が32億円と大きいにも関わらず、費用対効果が曖昧、②中間支援団体の中抜きが大きく政策効果が期待できない、③中間支援団体のモニタリング、事業支援のインセンティブが埋め込まれていない(リスクをとっていない)などであった。

 この被災地起業家支援事業は「社会的プロジェクトの効果測定」に関わるものだ。社会的プロジェクトの効果測定は、経済的便益と社会的便益からなり、単純に、経済的な便益によって測定することはできない。社会的な便益も苦慮されるべきであるが、この社会的便益は貨幣換算するのが難しいという面がある。

 被災地起業家支援事業に先立つ「内閣府地域社会雇用創造事業」においては、中間支援組織である「グランドワーク三島」が、費用対効果をSROI(社会的投資収益分析)という手法によって算定し、その効果は非常に高い(14.4倍)というレポーティングがされている。ただし、この推計値は、社会起業家の事業がプラン通りいったらという大甘(?)の想定が前提となっており、推定値の信頼性は低いものとなっている。

以上の問題の2つの解決策がある。

(解決策1)
中間支援組織の効果測定を社会的な便益も考慮し、統一的な手法(ソーシャルインパクト指数)で、横断的(中間支援組織すべての団体)に評価をおこなうことである。事業をスタートする前から測定を始めることが肝要である! なぜなら、こういう形で測定すること事態が、その数値を高めるインセンティブを中間支援組織に与えるからである。

(解決策2)
当事業をソーシャルインパクトボンド型で、成果に事後インセンティブを支払うスキームを採用することである。例えば、中間支援組織が雇用者1人生むと100万円の事後的なインセンティブを政府から受け取り、2年度も続いたらさらに30万円支払う形にする。

以上の方法を実施することで、税金を半分に、効果は2倍にすることが可能となるだろう。

2012年6月12日火曜日

被災地復興支援、ニューオリンズのコミュニティ再生から学べる教訓とは何か?


2005年にアメリカの巨大ハリケーンでニューオリンズは破壊的なダメージをうけた。しかし、現在は、ニューオリンズは起業家を輩出する街に変貌している。
The Idea Villageが出したのは、ニューオリンズに「起業家のエコシステムを作ること」、それが答えだった、
この結果、なんと、、、
  • 1654人の起業家の輩出、
  • 2122人のプロフェッショナルが、56119時間を無償提供し
  • $3.1millionのお金の引き込みに成功し
  • $82millionの売上、約1000人の雇用を生み出した

この事例から、日本人は妄想を膨らませる

仮に、被災地を起業家がどんどん輩出される場所にすることができたなら、、、
仮に、被災地に起業家のエコシステムを作り出すことができれば、、、

The Idea Village が考える
エコシステムを作るための5つのステップ

①課題を認識すること 地域に才能の流入を妨げている本当の原因は何か?を問う
②リーダーを見つけ出す 
③ネットワークを組織する ネットワークのハブとなるインフルエンサーを関わらせる
④ネットワークを進化させる
⑤ムーブメントを維持する仕掛けをもつ 
ニューオリンズでは、7月に始まり翌年の3月に終わる「起業家シーズン」というものを作り、街全体が関わる一大イベントにした

The idea villageは以下の5つの信念を持っている
  1. 起業家が変化を生み出す
  2. 起業家が(うまく育つには)、複雑なエコシステムを必要とする
  3. コーディネートされたネットワークがエコシステムを育てる
  4. ネットワークはローカルな文化や条件を反映しなければならない(地域に役立つものになければネットワークには存在意義はない)
  5. エコシステムを作り出すには10年単位のコミットメントが必要(一朝一夕に結果を求めることなかれ、覚悟と信念が必要だ)


ニューオリンズは、起業家のエコシステムを作り出すことによって、地域ソーシャルキャピタルを生み出すことに成功した。その結果、起業家がリスクをとりやすく、イノベーションを興しやすく土壌を作ったのだ。それはコミュニティ再生に十分寄与したのだ。

追記
企業にとっても有益な示唆に富む事例。エコシステムを作るための5つのステップを企業自身がソーシャルキャピタルを生み出す手法として応用することができるのではないか?

2012年6月11日月曜日

日本企業の企業ソーシャルキャピタルの問題点が危機を拡大させる

元オリンパス社長である
マイケルウッドフォード氏の言葉

「目上の人を尊敬するという日本的慣習が行き過ぎた面もあるのだろう。年上の人が間違ったことをした場合、その追求に遠慮がちになってしまう」

1人1人はいい人間なのに、なぜ集団だと良心に反する行動をとるのか」という言葉も残している。

ソニーにせよ、パナソニックにせよ、この年上の人が間違ったことをしても、その追求に遠慮して、結果として、軌道修正が遅れた面が危機を招いた面があることは否めないのではないか。

ソニーの出井さん時代、パナソニックの中村さん時代のプラズマへの傾倒など、過去の投資の失敗の対応に現在も追われている。

この原因の1つに、私は日本の企業ソーシャルキャピタルの形態が影響していると考えている。
企業ソーシャルキャピタルは8パターンに分類することができる。


日本の優良企業もまだパターン5優良企業型パターンが多いのだ。

社会とのつながりを強化することで、社会からのフィードバックをより迅速に活かせる経営体制(パターン1理想型)への脱皮が必要となるだろう。

2012年6月10日日曜日

日本の家電産業の敗戦分析 変化はお客さん以外から始まる


ソニーの例をみると、
2001年から、国内で様々な製品シェアの低下がゆるやかに進んだ。
このプレゼンス低下とともに、ソニーに対する消費者の「わくわく感」もなくなっていたように思う。

これに対して、ソニーの企業ソーシャルキャピタル、その指数の低下はそれよりも先行した形で低下している。特に、減少幅が大きかったのは、2001年度、2008年度、2011年度の3年。

つまり、企業ソーシャルキャピタルの低下は企業の競争力の低下に先行する。

これはどう理解すべきだろうか???

企業ソーシャルキャピタルは、ステークホルダーが企業に寄せる信頼、好感、期待感、関係性を定性化したものである。
企業の製品シェアは、企業のお客さんの支持である。

お客さん<お客さん+お客さん以外の社会の様々なステークホルダー

先行していたことの意味をどう解釈するか???

お客さんよりも、お客さんでない方がその企業に対して敏感に反応する、ことを意味する。限界的な反応(その企業の製品離れ)はロイヤリティの低いセグメント層から始まると解してもいいだろう。ロイヤリティの高いソニーを愛するお客さんは多少製品の品質が低下しても、ソニー製品を買い続けるだろう。

企業の本質的な変化は、お客さんよりも、お客さん以外のところから始まっている

この点は企業が肝に銘じるべき点だろう。

お客さんだけみていると足をすくわれる。企業ソーシャルキャピタルを継続的にモニタリングする必要性は高いと言えるだろう