2012年12月1日土曜日

社会的価値の評価手法

中間支援団体の社会的価値評価の話があり、いくつか先行する研究をチェックしてみる。

一つは、公社研がおこなった、マイクロソフト社と育てあげネットの「IT研修を活用した若者就労支援プロジェクト」をSROI評価した事例がある。

もう一つは、グランドワーク三島が内閣府・地域社会雇用創造事業「グラウンドワーク・インキュベーション」の社会的効果を算出した事例である。

社会的価値の評価はソーシャルビジネスの研究分野の中でも最も注目されている分野の1つである。

前者の研究は、
IT講習を受講した場合の進路達成率(45.5%)と受講しなかった若者サポートステーションの進路決定率(39.6%)の差(5.9%)を社会的価値として、年収をベースに価値評価してある。

プロジェクトの社会的価値(便益)/請負金額(コスト)=5.6倍、5年間の継続累計は21.3倍という結果を導いている。

 流れは、サービス提供した側が第三者に評価を依頼する構造のため、たいていは高い評価が出る形となる。政府の助成金が使われているので、どうしても成果を示したいというインセンティブを与えている。この点が事業仕分けとは根本的に異なる点だ。

 本来ならば、例えば、 内閣府・地域社会雇用創造事業を請け負っている中間支援団体の全てが政府の依頼により、第三者評価を受け、プログラム間の効果の高低を比較し、その原因が追求する形が理想的である。

以上の結果も、専門家の眼からみるとだいぶ杜撰な計算が行われているからだ。 

私の関心は、単なる計算を確認するのではなく、その数値からどういうインプリケーションを導くことができるか、という点である。

  •  SROIを使用する際の注意点は何か?
  • アウトカム、便益の定量化は納得できるものか? その他の可能性はないのか?
  •  SROIという単一の手法だけでいいいのか? 他の手法も使うべきではないのか?
  • SROIが高いことは具体的に何を意味するのか?
  • どうして高いSROIにつながっているのか? その論拠が納得感ある形で示されているのか?
  • 高いSROIをこのプロジェクトの効果に限定して考えることができるか?
  • 高いSROIが出るながら、政府としてもっとこのプログラムを拡大することが公益を高めると考えていいものなのかどうか?
  • 政府が他のプログラムとの費用対効果に使えるほど頑強な結果と考えることができるかどうか?
  • この結果を、新しい政府とサービス提供者との公契約に盛り込むことができないか?
  • ソーシャルインパクトボンドが成立する条件を満たしているか?
 以上の点を踏まえて、自己宣伝型の、単なるSROIの値が高い低いを云々するレベルを超えた評価が今後、行われることが必要だろう。

2012年11月30日金曜日

Collective Impactの有用性


社会的課題の解決においてCollective Impactというアプローチが注目されるようになっている。

それはどういうアプローチなのか?
複雑な社会的課題は単独プレーヤーでの解決には限界がある。様々なセクター、レイヤーの協調が必要である。この点は多くの人が同意するだろう。

では、そのような社会的な課題の解決において、様々なセクターの協調はどのような条件でうまくいくのかを研究する演繹的なアプローチである。

以下の5つが条件として挙げられている。
①共通のアジェンダ
②共通の測定システム
③互いに補強し合う活動
④継続的なコミュニケーション
⑤ファシリテーターによるサポート

議論となるのが、

①これまでに類似の考え方はなかったのか? プラットフォーム論とどう違うのか?

②どの点が考え方としては新しいのか?

 社会的課題の解決という点は新しいが、組織論で長く研究されてきたうまくいくチームとどう違うのか? 例えば、ピーターセンゲの学習する組織の条件と、抽象度の違いはあるものの、似た要件が多い。
③実際に、このフレームワークは誰のどういう点に役立つという、実用的な有用性を有しているものなのか? 

 共通のアジェンダのものと、継続的にコミュニケーションによってうまくやりましょう、というかけ声は分かるが、現実にうまく機能するものなのか? 例えば、政府とNPO、企業が共通のアジェンダを持つことも難しいし、同一の評価指標のもとで協調行動を促すのも実際は難しい。それぞれの利害が異なり、特に社会的価値のような抽象的なもので合意形成をするのはさらに大変なはずだ。

④ 後、私が気になるのは、リスクという観点がこのフレームワークには入っていない点である。
 
 実際の経済活動においては、それぞれのプレーヤーの利害は異なり、それが様々なリスクの引受けや押しつけ、トレードが行われる。その点が欠けている点が、③の現実への適用性に疑問を感じさせる要因である。ゲーム理論で囚人のジレンマから抜け出すプレーヤーの協調をどう促すのかという研究がある。5つの条件は、協調行動を実現する根本原因というよりも、協調行動が実現した後にみられる特徴のレベルではないかという疑問も湧く。

今後、いくつか実例をもとに、このCollective Imapctという考えがどれだけ現実の説明力があるかを研究してみたいと思う。

2012年11月27日火曜日

ソーシャルインパクトボンドの可能性

地方分権化を進める上でも、財源が一番の問題となる。

ニューヨーク市で画期的な社会貢献型金融商品「ソーシャルインパクとボンド」が発行された。ブルームバーグ市長の面目躍如である。
これを日本でも導入することで、様々な社会的課題に財源に悩まされることなく取り組むことができるようになるのではないか。
このSIBには、ゴールドマンサックスも投資して、今後、金融のメインストリームへの浸透も期待できる。

http://www.slideshare.net/takukumazawa/sib-15359664

これまでの金融商品:世の中が良くならなくても、投資家は儲かる
SIB: 世の中が良くなると投資家が儲かる、世の中が良くならないと投資家は損する

 この金融商品が普及していくには、
社会的課題、投資家の成熟、新しい仕組みの開発、社会的な課題の測定方法、ソーシャルアントレプレナーが必要となる。

私は、日本でもソーシャルインパクトボンドを発行ことは現行法で十分に可能とみている。

ポイント①その社会的課題にコミットするcommisionerは誰か?
ポイント②その社会的課題を介入する強力なプログラムはあるか?
ポイント③その社会的課題の改善を測定するしっかりとした評価手法はあるか?
ポイント④許容できる期間の中で、commisionerにはコストの削減を提供し、投資家にはリターンを提供する金融モデルを作ることができるか?

以上がポイントとなる。

この金融商品の発行に興味のある首長の方は是非、ご連絡下さい。

政策の判断基準



今回の衆議院選挙は多くの政党が乱立し、国民からするとどの政党を支持するかを決めるのが難しい。

政党、政治家のイメージではなく、「どの政策の組み合わせ(ポリシーミックス)が、国民の健康と幸福を最大化するか」という視点が必要だろう。

では、ある政策が国民のためになるのかどうかはどう判断すべきなのか?

まずよく使われるのが、通常の費用対便益、B/C分析である。Bを金銭的な経済便益、Cはコスト、投資とする。このB/Cが1を上回るかが一つの基準となる。この値が1以上のものは民間に移管していくというのも1つの考え方である。

ただし、B/Cの高低だけでは政策の優劣を判断するのは実は正しくない。分子に、金銭換算できない「社会的な便益S」も加えるべきだからである。

政策の優劣を判断する際には、(B+S)/C1を上回るかどうかが重要となる。

このSには、国民、様々なステークホルダーにどういう社会的便益が生じるのか? それがどれくらいの価値なのかを明快に説明できて初めて、政策は正当化されることなる。

それには、ソーシャルインパクト分析が役立つだろう。

①社会的課題の深刻度:そもそも、この問題がどれだけ社会的な課題、深刻なのか?
②社会的投資効果:投資金額に比べてどのくらいの経済的便益と社会的便益が生じるのか?
③スピード:どれくらい迅速にその社会的課題の解決に役立つのか?また、ボトルネックはないのか?
④波及効果:地域、産業への波及効果はどれくらいあるのか?
⑤政策実行基盤:この計画の実行基盤は十分なのか?

以上を勘案して、政策が生む効果を定量評価することが、政策の比較、政党の比較には有益だろう。

2012年11月25日日曜日

国土強靭化計画は学者が捏造に加担した、政治的なプロバガンダに過ぎない


国土強靭化計画は学者が捏造に加担した、政治的なプロバガンダに過ぎない。本当に真に受けて実行したら、日本は破産する。

 安倍首相(予定者)はだますことはできるかもしれないが、これが本当に実行されたら、日本は大変なことになる。実は多くの誤りが含まれているからだ。

この政策の推進者は、言わずと知れた、京都大学の藤井教授である。

国土強靭化の論拠として、以下の式を挙げている。
名目GDP=5.9×公共事業+1.3×総輸出+誤差
この回帰式が1990年から2009年で、名目GDP82%を説明できると主張している。この式で、1兆円の公共事業は5.9倍、5.9兆円の名目GDPの増加をもたらすと主張しているのだ。

言ってみれば、この式が国土強靭化計画推進の唯一の論拠なのだ!

しかしながら、この式には多くの間違いが含まれている。

間違いを指摘しておこう。

間違い1
名目GDPを公共事業と総輸出の2つの変数で説明している点がまず根本的な間違いだ。名目GDPには金融政策、金利も影響を与える。影響を与える多くの変数を除くことで、この公共事業の効果(5.9倍)は非常に過大評価されたものになっている。

間違い2
公共事業と総輸出は名目GDPの構成要素で11%13%を占める。この低い寄与度を考えると、公共投資、総輸出の2変数で名目GDPのモデル特定には無理がある。

間違い3
因果関係を考えても無理がある。公共事業が多くなるのは景気が悪くなった時だ。だから、名目GDPと公共事業がみせかけの相関があったとしても、公共事業が名目GDPを決定するというモデルは理論的ではない。むしろ、政策実行のタイムラグを考えると、名目GDPが下がると、次の年の公共事業が増えるという逆の因果関係となる。また、公共効果の効果は決定された年に単年度で生じるわけではない。この点も間違いだ。

間違い4
被説明変数、名目GDPの説明変数として総輸出をとるのは経済理論的に正しくない。国内の輸出は国内でなく、海外の景気、海外のGDPの説明変数とするのが経済学の標準モデルだ。

間違い5
説明力82%というは、統計の専門家からすると、社会科学の場合では、その数字だけみただけでほとんどウソか誤りだ。

是非、藤井教授には、この回帰式に使った数字を出してもらいたい。公の元で、この式が本当かを確認したい。これだけのことをぶちあげているのだから、その責任があるだろう。