2012年9月21日金曜日

公益資本主義の成立条件を考える

 原丈人さんは日本を代表するベンチャーキャピタリストだが、数年前から、これまでの資本主義の欠陥を指摘し、新しい公益資本主義を提唱している。公益資本主義の条件として以下の3つの条件を挙げている。

1つ目は、富の分配の公平性。企業CEOと労働者の賃金格差があまりに開きすぎるのはおかしいという観点である。

2つ目は、企業の継続性。様々な企業の危機に対応するだけの内部留保をしっかり持つ必要性があるという観点である。

3つ目は、改良改善性。イノベーションによる製品開発、品質向上、生産工程の改善を図る必要があるという観点である。

 私はソーシャルイノベーションの重要性を強調する。資本主義3.0時代の企業の目的関数は、経済的価値のみならず社会的な価値を高めることになると考えている。

原丈人さんの主張はと私の主張は、どう整合的に整理されるのだろうか?

原さんはマクロ観点、私はミクロ観点からアプローチしている。 

いわば、ミクロ、短期が実現されることで、マクロ、長期が実現されるという関係になる。

 そのミクロとマクロ、短期と長期を結ぶカギは企業ソーシャルキャピタルステークホルダーからの信頼、好感度、関係性である。この企業ソーシャルキャピタルは成功をもたらす前提条件であるとともに、成功の結果になる。こういう変数をなんと定義したらいいのかわからないが、好循環を生み出すレバレッジポイントと言えるのだ。

 企業ソーシャルキャピタルを高めることが、企業のソーシャルイノベーション、経済的価値と社会的価値を大幅に高めることを可能とする。その結果、ステークホルダー間は、短期的視点、対立、トレードオフから、長期的視点、協調、トレードオンに変わる。
その結果、マクロ的には、富の分配の公平性が実現され、内部留保も高まり、改良改善性も高まる、パレート最適性を実現できるのだ。






2012年9月20日木曜日

尖閣諸島国有化、政策インパクト評価の必要性

 野田首相は、今回の尖閣諸島の国有化に関する中国側の反発は当初の想定を超えていたと述べた。今後様々なチャンネルを通じて理解を得ていく方針である。

 重要な政策を実行する前には、その政策をおこなうことでどのような社会的なインパクトが生じるかを算出しておくことが必要だ。場当たり的に、その場の空気で意思決定をおこなうと、第二次世界大戦のような悲劇をまた生むことになる。また、様々な政策変数の感応度をシュミレーションしておくことも必要である。

 仮に、その政策変数に不確実性がある場合には、どの程度であったら意思決定を変えるべきかのか、その閾値を把握しておくことが重要となる。

 これまでのマイナスを計算すると、
中国側のデモによる日系企業の店舗、工場等の破壊 ▲200億円
中国に住む日本人の不安、不便、身の危険 ▲

 現在、デモ行動は鎮静化したといっても、中国当局が抑制したから沈静化したのであって、中国当局の意向でいつでもデモ行動は再開されるし、暴徒化する。このカードは中国にあるのだ。

領土問題が早期に決着するのが最も難しい課題だから、まだ国有化の社会的なインパクトは続いていく。

今後の予想されるマイナスは、

中国からの観光客の減少、お土産等の購入の減少 ▲

中国の日本製品の不買運動  ▲

日本から中国への輸出の減少 ▲

さらには、経済制裁の可能性 ▲

以上に加えて、中国の反日感情の悪化という、経済的価値に換算しにくいマイナスが生じている。

一番大きい分岐点は、中国の経済制裁が実行されるかどうかである。経済制裁を実行するという脅しに対してどこまで日本が耐えることができるかである。

以上のようなシュミレーションから、果たして尖閣諸島国有化を今の時期に正当化できるいかどうかは大いに議論がある。


2012年9月19日水曜日

イノベーションをおこす経営モデル?



The New Corporate Garageという論文によると、現在、大企業でも、ITの力やオープンイノベーションの力により、昔に比べてイノベーションしやすくなった。その結果、大企業とベンチャー企業を比べた場合、大企業の方がイノベーションを行う上で有利になったのではないかと考察している。

この論文では、イノベーションの歴史を4つの世代にわけている。

1世代=孤独な発明家:エジソン
2世代=工業化と大企業によるR&D:デュポン
3世代=ベンチャーキャピタルとスタートアップ:アップル
4世代=コーポレート・ガレージ:IBM

 確かに、欧米ではIBMP&G、そして第三世代の代表選手であるアップルは第四世代のイノベーターとしても活躍し続けている。

 私自身は、イノベーションを「その企業が世の中の人々の意識や行動をどれだけ変えることができたか?」を基準に判断している。その企業がなかった場合との世の中の差異がその企業のイノベーション度合いを表すと考える。

 翻って、日本はどうだろうか? 日本は第3世代のベンチャーキャピタルモデルもあまり成功例がない。第四世代と言える企業も数少ない。日本の大企業は、第2世代の残骸のような企業が多いと言うのは少々手厳しすぎるだろうか?

 いずれにせよ、日本は大企業のイノベーション力が欧米企業と比べて弱いように思う。この点を、新しい環境の中で、どういう経営モデルを作り克服できるかが、今後の日本にとって重要な課題であるように思われる。

2012年9月18日火曜日

野田首相の危険な賭け、政策のソーシャルインパクト?


 尖閣諸島の国有化に対する中国の反日運動、反日デモの反発はさらに激化している。

 野田首相はどの程度、この事態を想定して今回の意思決定を下したのか? 果たして、その想定が正しいものだったのか? 十分な準備がなされた正しいプロセスだったのか? 

 このような問題を正しく判断するには、政策のソーシャルインパクトを意思決定の前に事前に測定することが絶対に欠かせない。

 最も単純に、正しい意思決定をするには、その意思決定におけるコストと、その意思決定において得るもの、価値(果実)を比較することである。

 今回は購入コストは20 5000万円、得る果実は、尖閣諸島の原油埋蔵量は1,000億バレルを超す原油埋蔵量と言われており、もし採掘できたらとした経済的利益ははかりしれない。ただし、この直接のコストと価値だけで意思決定できるわけではない。

正しい意思決定のためには

 意思決定に伴うコストを正しく算定しなければならない
② 意思決定の非金銭的な価値も考慮しなければならない
 意思決定に伴うリスクを正しく把握しなければならない
 意思決定が実現するプロセス、シナリオを正しく特定しなければならない
 今回の意思決定で、以上の4つが原則はどの程度考慮されているのか?

  中国には日系企業が2万社、14万人の日本人がいる。現在、彼らは日常生活に不便が生じ、生命の危険を感じながら生活している。このことからも、今回の意思決定で、正しい意思決定の原則が守られているとは考えられない。

2012年9月17日月曜日

国の尖閣諸島買取りの社会的なインパクトの定量評価?


 尖閣諸島を巡る中国の反日運動、反日デモが激化している。いろいろな意味で、日本政府の意思決定に誤りがあったことが既に明らかになってきている。

 もともと、野田政権は尖閣諸島を国が買取るという方針はもっていたわけではなく、民主党マニフェストにも当然書かれていない。石原都知事の行動に突き動かされて、単に受動的におこなわれた意思決定であった。

 石原都知事が尖閣諸島を買取る交渉を地権者としていたが、最終敵に地権者は国に売ることに決めた。地権者は東京都から国に売り先を変えることで、145000万円から205000万円に売値をあげることに成功した。国が尖閣諸島を買取った隠された意図は、東京都が尖閣諸島を買取っり、施設などを作った場合に中国側から多大な反対が出ることが予想され、それを阻止するためであった。

 しかしながら、実際は、尖閣諸島に施設を作るかどうかよりも、国が買取ったという事実に対して、中国国内で激烈な反日運動、反日デモが生まれたのだ。この点で、日本政府、外務省も含めて、情報収集ミス、見通しの甘さがあった。

 また、今回の不気味さは、反日運動、反日デモはごく一部の地域ではなく、既に、ほぼ中国全域で展開されている点である。

 現在、既に、中国国内の施設や工場で被害が生じている。単に、野田首相が通り一辺当の声明を出すだけでは全く埒があかない。具体的な解決に向けたアクションが求められているフェーズだ。このような深刻な危機のケースでは、危機発生から数日の初動が重要だが、現在のところ、野田首相は、「情報収集に万全を期して、関係省庁と連携をとって、邦人保護を万全にせよ」との指示したが、本当にこの程度でいいのか?という疑問も湧く。中国国内の日本人の声明にまで危険が及ぶ可能性がある。

 今後のシナリオを考える上で、以下の4点がポイントとなる。①日本人の負傷者、死者が出るかどうか? ②中国の反日運動、反日デモはどのくらいの期間続くかどうか? ③その結果、中国現地の活動の制限、撤退がどの程度生じるのかどうか? また、④日本国内の影響(中国人観光客の減少、中国への日本人観光客の減少、中国から日本への投資の減少等)がどの程度及ぶのかどうか?

 尖閣諸島の買取りを1種のプロジェクトと考えれば、最終的にはこの投資を回収する戦略、シナリオ、ストラテジーがなければならない。

採算シナリオを考えてみよう。

最初の投資金額は205000万円の投資でスタートした。今回の反日運動、反日デモの損害額はどのくらい続くかにもよるが、現在のところは▲150億円、これが続くと1500億円程のマイナス(推定)になるのではないかと予想する。

初期 ▲205000万円
現在 ▲150億円〜▲1500億円
将来  ?円

この投資金額を、エネルギー資源採掘によって回収できるのか? それは中国側の対応もあるので、不確実性のある確率的なものになる。

採掘金額そのものも推定であるし、採掘ができるのか? その結果みつかるかどうか? これに加えて、中国側の反発も予想される。

採掘されるエネルギー資源額×採掘がみつかる確率×中国の反発さずに採掘できる確率である。

今回、仮に、尖閣諸島の実行支配に成功したとしても、実際に採掘になった場合は、中国側の反発は今回の反発を上回ることは十分に予想される。


 より詳細にプロジェクトを分析するには、ソーシャルインパクトリサーチ社が開発したソーシャルインパクト指数®が有益である。ソーシャルインパクト指数は、社会的なプロジェクトの価値を定性、定量的に評価する手法で、5つのファクターを測定する。①社会的な課題の大きさ、②社会的投資対効果、③波及効果、④スピード、⑤実行基盤

今回の場合の適用を簡単に考えてみる。
①社会的な課題の大きさ
尖閣諸島を日本が買取ることは、採掘を早め、日本のエネルギー問題の解決に資する可能性がある。

②社会的投資対効果
 費用には、採掘費用に加えて、今回の中国反日運動、反日デモのコストも含まれる。エネルギーの埋蔵量が大きいほど投資効果は高まるが、中国の反日デモが大きいほど投資効果は減少する。また、埋蔵量、見つかる確率を高めていくこと、不確実性を減少されることが投資効果を高める。

③波及効果
産業への波及効果は非常に大きい

④スピード
日本が実際に採掘に至るまではまだまだかなりの時間(10年単位)を要するだろう。埋蔵からマネタイズするにはまだいくつかのマイルストーンを経る必要がある。

⑤実行基盤
 採掘そのものの資金基盤はあるが、中国政府、中国民衆の反発に屈せずに、採掘まで到達するにはかなりの国内の政治的な基盤、世界の支持が必要である。また、期間も腰をすえた対応が必要となるが、近いうちに解散が予定されているタイミングではその点は難しい。

以上を総合的に考えると、
 尖閣諸島買取りは、日本のエネルギー問題の解決に資するという点で重要度は高いものの、中国の反発次第で採掘できるかどうかの不確実性が高く、投資対効果は大きくブレル可能性がある。また、エネルギーという産業で波及効果は見込まれるものの、実際のスピードは長くかかる。この点を踏まえると、野田政権で、国内の政治的な基盤、世界からの支持が弱く、この尖閣諸島という大きな問題を、この時期(近いうち解散)に、短時間で解決できるメドもなく、中途半端に手をつけたのは早計だったと結論づけることができる。

2012年9月16日日曜日

ビジネスモデル思考の有用性を高めるには?


 ここ数ヶ月、ビジネスモデルやビジネスモデルイノベーション(BMIに関する書籍や記事が急激に増えている。

 まさに、時代の変化、環境の変化によって、日本企業の既存のビジネスモデルが成立しなくなり、ビジネスモデルのイノベーションが必要とされていることを反映している。

 ビジネスモデルの定義は様々あるが、一言で言うと、儲かる仕組みのことである。私は、「あなたの事業は儲かるのか?」という問いに対して、質問者を納得させるストーリーを提供するもの、と定義している。

 ビジネスが成立するには、収益がコストを上回ることが必要である。どのようにすればそれが達成できるかを、抽象レベルで、どのレベルの抽象化が実際のビジネスに役立つかを考えるのがビジネスモデル思考と言える。

 さて、ビジネスモデルのフレームワークは、新しいビジネスを生み出すのにどのくらい役立つものなのか?

 この問いには実は私は否定的だ。既存ビジネスを何故儲かっているかの分析にはビジネスモデルのフレームワークは役立つものだが、新しいビジネスを生み出す力は単独でビジネスモデルのツールを用いても、その効果は限定的ではないかと考えている。

 また、ビジネスモデルの整理に役立つフレームワークと、ビジネスモデルを創造するフレームワークは異なるのではないか? と考えている。

 例えば、ビジネスモデルキャンバスはビジネスモデルを整理するには非常に優れた方法論だが、いきなり、新規事業をこのビジネスモデルキャンバスからスタートしても、おそらくいいビジネスプランは作れないのではないか?

なぜなら、新しいビジネスの創造、アイデア創造には、拡散→収束のプロセスが必要になるからだ。ビジネスモデルキャンバスは、収束プロセスに属し、拡散プロセスが欠けている。

 この拡散プロセスを補完するのが、アナロジー思考である。日本でも、KJ法、NM法、ブレインストーミング等が使われている。デザイン思考や現場の観察なども広い意味ではアナロジー思考に属するものだ。私はメタフォームという手法をよく使っている。

 まとめると、新しいビジネスを考えるには思考の拡散と収束の2つのプロセスを螺旋的に組み合わせる必要があり、ビジネスモデル思考は後者(収束プロセス)に属すること。思考の拡散を促す思考方法で、ビジネスモデル思考を補完する必要があること、以上を認識しておく必要がある。