2012年7月10日火曜日

これからの金融の姿を考えてみる


 これからの金融の姿を考えてみたい。

ARUNのセミナーに参加した。ARUNは途上国の社会的投資を標榜している団体である。

このセミナーの中で私が以下のことを申し上げた
  • 社会的投資とは、経済リターンと社会的リターンの両方を追求する投資であること
  • 社会的なリターンは、お金の出し手とお金の受け手がダイレクトにP2P型で結ばれることでうまく反映することができること 
現在のARUNの仕組みはパートナーになるのに50万円の拠出が必要となり、そのお金をプールして、そのプールしたお金を投資委員会で出資先を決めるという形をとっている。

私はこのようなプール型の投資の仕組みではソーシャルリターンをうまく反映することは難しいことを指摘した。参加型といっても、実は参加型になりづらくなるのだ。パートナーが80人を超えて、投資を決める権利は50万円も出すのに、その中の1票になってしまうのだ。インパクトを高めるためには投資資金が必要。しかし、投資資金を大きくするとパートナー1人1人の位置づけは小さくなる。

Kiva、ミュージックセキュリティーズの仕組みの方がP2P型で、お金の出し手が出すプロジェクトを決めるため、ソーシャルリターンを反映しやすいというメリットがある。

いずれにせよ、経済的リターンと社会的リターンの両方を生み出すことに長けている団体、投資形態は繁栄していくが、そうでない非効率な形態は衰退せざるを得ない。金融においても、制度の進化プロセスが進行するのである。

ソーシャルビジネスに潜むパラドックスとは?



 企業でも、ソーシャルビジネスでも、その活動によって、
経済的な価値と社会的な価値、つまり共有価値を作り出す。



 経営資源、リソースを深化させ、この共有価値を高めることで、通常はその組織の生存率、持続性を高めることができる。(ちなみに、(株)ソーシャルインパクトリサーチはソーシャルインパクト指数の大きさによって、ソーシャルビジネスの組織をレベル1、レベル2、レベル3に分類している。)

しかしながら、時には、それが成り立たないバラドックスが生まれる。

お金を直接支払ってくれるのは顧客であり、その生み出された経済的価値だけがマネーに転換されるからだ。社会的な価値は社会からの信頼として長期的には貴重な資産になるかもしれないが、直接的にすぐにはお金には転換できない。

ふとすると、この当たり前のことをソーシャルビジネスの運営者は忘れてしまう。

みんな、社会からこれだけ感謝されているのに、なぜうちは経営がカスカスで、いつも自転車操業なんだ、という思いを抱くことになる。
  
そう、一番考えなければならないのはこの点なのだ。
社会的な価値をどうマネタイズにつなげられかがソーシャルビジネスの最大の肝なのである。

この部分が肝だからこそ、ソーシャルビジネスにはビジネスモデルが重要になるのだ。おそらく、この方程式を解くことは通常のビジネスよりも難しいはずだ。

 組織が成功するには優れたビジネスモデルが不可欠であり、それは営利も非営利も変わらない。

また、直接的なサービスの受益者=お金を支払う人でないケースが多いからこそ、どれくらいの社会的な価値を生み出したのかを示す、ソーシャルインパクトの可視化が有効な戦略的武器になるのだ。


2012年7月9日月曜日

ソーシャルビジネスの分析モデルとは?


 社会起業、ソーシャルビジネス向けに、ビジネスモデルジェネレーションをどう使うことができるかを考えています。

 ビジネスモデルという概念はいろいろな意味で使われていて、実は明確な定義は定まっているわけではありません。ただ使う側の立場からすると、そのビジネスモデル論は
  1. 必要な要素を含んでいるか? 
  2.  部分と全体の関係性は適切であるか?
  3. 静態的なものではなくダイナミックなモデルとなっているか?
以上の3つの観点がビジネスモデルを考える上で重要のように思います。

 ビジネスモデルジェネレーションは①必要な要素は含んでいるのですが、②部分と全体の関係に関して言うと、9つの要素が全て同列、同じウェイトなっている点で私からすると問題を感じる面があります。

 ビジネス戦略論では何が最も重要か? 何が競争優位を決めるのが長く議論されましたが、現在はリソース(経営資源)が最も重要で、戦略立案の起点になる見解が一般的になっています。この点は、企業でも、ソーシャルビジネスでも同じように思います。

 リソースが、主要活動、価値提案、顧客セグメント、顧客との関係、そしてコスト構造に大きな影響を与えます。ですから、リソースは他と同列に扱うよりも、特別な地位を与え、リソースと他の要素の関係を考えることがビジネスモデルを考える上でも有益な洞察を与えます。

また、③の観点からは、リソースと他の要素との関係性はダイナミックに変化していきます。もっと積極的に、その動学的な面をビジネスモデルジェネレーションに取り入れる必要があるように思います。例えば、知識やノウハウなどのリソースが蓄積され、強みが強化されることで、顧客ターゲットや業務が変わるという面はよくあることです。

私のソーシャルビジネスの分析モデルは以下のようなものです。縦軸はサステナビリティのレベル、横軸は経営資源、リソースの深化を取る形になります。


このモデルは、経営資源、リソースの深化によってサステナビリティがあがることを示しています。ステークホルダー〜マネタイズの部分がビジネスモデルに相当したものになります。


社会起業のためのビジネスモデルジェネレーション


社会起業のために、どのようにビジネスモデルを立案することができるか?

まずは、Alexander氏の「ビジネスモデルジェネレーションのフレームワークで整理してみたい。

まずは、ビジネスモデルの定義
ビジネスモデルとは、どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的に記述したもの

ビジネスモデルは9つの要素からなる
①顧客セグメント/②価値提案/③チャネル/④顧客との関係/⑤収益の流れ/⑥リソース/⑦主活動/⑧パートナー/コスト構造

これらを1枚の紙にまとめたものが、戦略キャンバスと呼ばれるものだ。

具体例は本をみてアマゾンの例を参考にされたい。
以上が、簡単なビジネスモデルジェネレーションのフレームワークである。

では、このフレームワークを知っていることで何が得するのか?
  • 抜け落ちがなくなる
  • 考える時間が短縮される
  • 1枚にまとめることで、全体と部分の関係性がよりわかりやすくなる
  • ビジュアル化することで創造性を刺激する、などが挙げられる

 ビジネスの世界で非常に評価されたフレームワークだが、ソーシャルビジネスでもこのフレームワークはそのまま使えるか?

私の答えはNO。ただし、そのままでは使えないという限定的だ。

では、どのように変える必要があるか?
  • 顧客→ステークホルダー全体
  • 顧客への提供価値→ステークホルダーへの提供価値
  • 提供価値→経済的価値+社会的価値
  • 価値の提供者(受益者)とお金の支払い手が異なるケースが多い→社会的価値(ソーシャルインパクト)の伝達機能を組み込む必要がある
  • 社会的な価値をいかにマネタイズに転化するか、そのパターンを知り、活用する必要がある→この部分こそが、ソーシャルビジネスのビジネスモデルの肝
  • ソーシャルビジネスの場合はファンドレイズもビジネスモデルに含む必要がある


 私の考案した、ソーシャルビジネスモデルは、縦軸に持続性、横軸に経営資源の深化をとり、社会的課題→ミッション→ステークホルダー→解決策→共有価値→マネタイズレベルと整理するものである。このソーシャルビジネスモデルは機会をみて改めて提示したい。