2010年10月8日金曜日

ソーシャルファイナンス:共感をよびこむことができない市場

 
 今年IPO市場も低調だ。IPOの数もそうだが、質的にも魅力的な会社が少ない。数少ないIPOの中から粉飾会社がでる始末・・・。
 VCは海外IPOに活路を見いだそうとしているが、おそらく徒労に終わるだろう。

 いろいろな原因はあるが、一番大きいのは、「IPOモデル」が、社会に共感をよむことができなくなったことである。

 IPOを目指して会社を興す。IPOを目指してがんばる。IPOをえさに従業員をストックオプションで採用する。そして、最後はIPOで儲かるのはオーナーである自分自身。上場後に購入した投資家は損をするのが当たり前。
 このドラマの結末では1回は許せても、投資家としては何度も許すわけにはいかない。

 ソーシャルな時代には社会に共感をよぶことができるかが大きなファクター。共感は利己的な行動ではなく、利他的な行動やより大きな大義(Cause)からよびおこされる。そのような共感ファクターをどこかに入れないとIPO市場が復活することはないだろう。

 仕組みとして、株式の流動性が生じるものであっても、実際には買い手、買いたいと思う人、つまり共感がいなければ流動性は担保されないのだ。結局のところ、市場経済は感情の上に基盤を築いている砂上の楼閣なのだ。

 そういう意味では、私はソーシャルベンチャーに注目している。ここにどういう形で、どれくらいのお金が流れて行くかが日本の将来を決めていくのではないか? 

2010年10月7日木曜日

ソーシャルベンチャー:今後の戦略を考える

 今日がいよいよ、社会起業ケーススタディ勉強会だが、事前質問の問いに、
「今後のフローレンスの方向性について評価して下さい。あなたが駒崎氏の立場だったなら、「病児保育事業」についてどのような成長戦略を描きますか?」

 今後の展開で一番の岐路は、フローレンスは病児保育のこの領域にとどまるべきか? それとも他の分野に進出すべきか? フローレンスのミッションは「こどもの熱や軽い病気の時に、安心して預けられる場所が圧倒的に少ないという病児保育問題を解決する」。他の分野に進出するのであればミッションからはみ出ることになる。

 企業でも無関係な分野への多角化はパフォーマンスが低いが、強みやコンピタンスをもとにした多角化展開は成功確率が高いとされる。ならば、フローレンスの強みはどこにあるのか? どこにその強みを活かすべきか? 

 問いをさらにブレークダウンすると、「フローレンスはどのような新しい問題に直面しているか? フローレンスにどのような新しい機会があるか? 組織にとってどのような新しい課題が現れているか?」
 また、「顧客のニーズはどう変わっていているか? 顧客の価値はどう変わってきているか?」なども点検する必要がある。

 現実はどうあれ、必ずしもそれが正解とは限らない。ケースの場合はその時の情報のみで決断することで、意思決定能力を磨くのが目的だ。

2010年10月6日水曜日

ソーシャルビジネス:ブームの背景?

 事前質問を考えた張本人が自分の考え方がないのもどうかと思いますので、今日は、自分の質問に対する自分の考え方をまとめたいと思います。

社会起業ケーススタディ勉強会の事前質問の1つ。
「現在、社会起業家ブームとなっているが、社会起業家を押し上げている社会的背景はどこにあるのか? それは単なるブームで終わらないか? フローレンスはどういう時代の文脈にマッチしたのか?」

 基本的には、f(ミッション実現)←(機会、能力、コミットメント)と思います。現在、フローレンスが注目されるのはミッションを実現してきたから。そのミッションがうまく時代の機会を捉え、それに対する組織内部の能力とコミットメントを高めることができた。

パラダイムのシフト
価値観/  オーナー、株主IPO →より広い、社会全体の価値の重視
既成概念/ 行政がやる仕事、補助金でやる事業→民間がやる、民間の方がうまくやれる
NPOのあり方/ ミッション重視、弱い持続可能性→自助努力、マネジメントも重要に
ミッションの時代適応性/ 男が働き、女性が支える社会→働く女性を応援する社会
社会的問題の解決/ 単純、行政が解決 → 複雑化、単一の企業だけでは解決が難しい
行政への認識/ お役所の安心感→行政は非効率、ニーズ対応力が弱い、多様なニーズに対応できない

 民間企業でも、NPOでも、ソーシャルベンチャーでも、成功する割合は低位、一定率しかありませんが、多くの人がソーシャルベンチャーという方向で事業をおこなっていけば、数としてはどんどん成功事例も生まれてくるんではないでしょうか? 昔のIT,ネットバブルと同じです。

ソーシャルビジネス:成功の基準は?

社会起業ケーススタディの事前質問の1つ。
「フローレンスの成功要因は何か? フローレンスは成功していると考えられるか? 何をもって成功を評価すべきか?」

 社会起業の成功の基準を何と考えるか? これがいつも議論の混乱を生む原因の一つともなる。以前、ダイヤモンドの特集でビジネス側の人たちが社会起業家に否定的な見解をしたことがあった。その原因も実はここにある。

ビジネス側の人たちの成功基準は業績、売上、利益、ROI、成長率など。目に見えるもの、測定可能なもの、比較可能性があるものとなる。売上が1億〜2億円で成功と評価されるのが、ビジネス側の人たちには到底理解できないのだ。

 それに対して、社会起業は社会の問題解決とビジネス性の両立を目指すとはいえ、全てがビジネス性で判断されるわけではない。より重要なのはミッションの実現可能性を高めることである。そのミッションはその社会起業組織固有のものであるとすると、他社と比較可能なのか、比較すべきかが実は難しい問題となる。

 また、「成功を考える範囲の違い」と言う問題もある。ビジネスの場合は極論すれば株主が儲かるかが成功の判断基準となる。最近はさらに修正されたステークホルダー全体という考え方も出てきてはいる。社会起業の場合は、その組織と社会を含む範囲を成功を考える範囲として捉えている。したがって、組織だけ、株主に還元する利益だけでは成功の判断はできないのだ。

2010年10月5日火曜日

ソーシャルビジネス:生き残る組織アーキテクチャーは?

フローレンスのケーススタディ勉強会で考えた事前質問の紹介。
「フローレンスはNPOという組織形態を採用していますが、NPOである必要性があるのか? 株式会社では駄目なのか? 組織形態のメリット、デメリットを考えてみてください。」

 この問いに対して、正直、自分自身明確な答をもっているわけではない。評価の基準をまず何にするかが問題となる。それぞれの組織形態によって目的が異なり、それにともない評価基準も異なるはず。

 通常のビジネスを考える場合は、環境と戦略に基づき、組織アーキテクチャー(意思決定の権利、評価システム、報酬システム)を、最適に決めていくアプローチをとる。組織アーキテクチャーは組織形態(NPO or 株式会社)によって異なるものになる。

 環境が異なれれば、戦略が異なれば、最適な組織アーキテクチャー、そして最適な組織形態も異なるものとなる。

 時代を通じて、競争を通じて、生き残っていく形態が適者生存の理となる。今後を考えると、ソーシャルベンチャーも株式会社形態がドミナントになると私は予想しています。

2010年10月4日月曜日

ソーシャルビジネス:ミッション、ビジョンの設定

「社会的起業ケーススタディ勉強会」を主催している。第1回は10月7日でフローレンスのケースだがすぐに30名以上が参加希望者が集まる。ソーシャルベンチャー周りは熱い。

ケースの事前質問を考えてみた。
「フローレンスのミッション、ビジョンを評価してください。フローレンスがおこなっている事業は彼らのミッション実現の方法として適当かどうか評価してみてください。」

 営利企業でもそうだが、非営利企業はとりわけミッションの設定が重要である。ミッションとビジョンはよくこんがらがるが、ミッションは、その組織が現在の活動をなぜ行っているかという理由、組織の存在価値、目的である。ドラッカーは「何をなしたことをもって人々の記憶に残ることを願っているのか」に答えなさいと教えてくれている。ビジョンは組織のとって望ましい未来図。

フローレンスの場合は、
ビジョン「子育てと仕事そして自己実現の全てに、誰もが挑戦できる、しなやかで躍動的な社会」
ミッションは「こどもの熱や軽い病気の時に、安心して預けられる場所が圧倒的に少ないという「病児保育問題」を解決する。」

どういうミッションがいいミッションなのか? 判断するにはその評価基準が必要である。
ミッションの実現がビジョンの実現にスムーズにつながるか? ミッションは短く、焦点が絞られているか? そのミッションは外部の機会、組織の能力、コミットメントのバランスはとれているか?

また、そこから、顧客が明確になるか? 成果が明確になるか? 組織の人材が正しい仕事をするように動機づけられているか? 顧客にどういう価値を提供するかが明確化されるか?
などなど。

参加される方々の解答が楽しみです。