2012年10月13日土曜日

「マイケルポーターの共有戦略」の経営戦略上の地位づけ


  マイケルポーターの共有戦略をこれまでの経営戦略論の系譜の中でどのように位置づけるかに関して模索が続いている(岡田 2012

 言い換えると、企業のパフォーマンスを非説明変数とした場合に、その説明変数は何なのか、という問いになる。

第一世代 業界構造 ポーターの5フォースが企業パフォーマンスを決める
第二世代 企業特殊な経営資源 企業の内部の特殊なコンピタンス、ケイパビリティが企業パフォーマンスを決める
第三世代 不確実性 不確実性にどう対処するかが企業のパフォーマンスを決める
第四世代 ??

この第四世代に、ポーターの共通価値を位置づける試みがなされている。

この変遷は企業と社会の捉え方の変遷とも言える。

第一世代では、企業と社会を対立的、明確に境界線を引く考え方だ。

第二世代は、逆に、外ではなく、内が企業パフォーマンスを決めるという考え方だが、この考え方も基本的には企業と社会を対立的、明確な境界線を引いている点では第一世代と何ら変わらない。

第三世代は、この企業と社会の境界線を不確実性というファクターを重視することによってだいぶ曖昧化してきた。

第四世代は、企業と社会を対立的な見方から、企業と社会の相互作用を重視する見方に劇的な変化が起こった。この第四世代のキーワードは外部性の内部化である。つまり、企業と社会の境界線も新しく引き直さなければならないということを意味している。

これをパラダイムシフトと位置づけられるかどうかが今後の経営学会の論点となるだろう。

2012年10月11日木曜日

マイケル・ポーターのCSV経営を実現するには?

 マイケル・ポーターは「これからの企業の目標は単に利益を生み出すだけでなく、共通価値(経済的便益+社会的便益)を生み出すこと」と定義した。

では、どうすれば、このCSV経営を実現できるだろうか? 

そのためには、社会的便益も含めた費用対効果を測定する新しいモデルを持つ必要があるのだ。これができないと、結局は絵に描いた餅になる。マイケルポーターもこの点を最近の論文では認めているところだ。

では、簡単なモデルを作って、投資対効果を考えてみよう。
 
 ポーターのCSVのフレームワークを使うと、CSR投資は、経済的便益と社会的便益を生み出すことになる。簡単なモデルを作ると下図のようになる。

その流れを整理してみよう。CSR投資は以下の3つの流れで価値を生み出す。
CSR投資が社会的便益を生み出すケース
❷ CSR投資が経済的便益を生み出すケース
❸ CSR投資が社会的便益が経済的便益に転換されるケース

 通常のCSRは❶のケースが大半を占める。受動的CSRと定義されるものだ。つまり、社会にいいことをやり、社会的便益を生み出すが、経済的便益を生み出さないケース。このケースでは、経済的便益と社会的便益がトレードオフの関係にある。

 ❷+❸を両方生みだすケースもある。これは、戦略的CSRと定義されるものだ。例えば、ウオルマートが包装を減らすと共にトラックの配送ルートの見直しによって1億マイル短縮して2億ドルのコスト削減に成功したような事例である。

 以上の社会的便益の算出は、私が開発したソーシャルインパクト指数を用いれば簡単に計算できる。経済的便益は通常の経済計算で対応可能である。

 比較的算出が難しいのは❸のケースである。CSR投資によって、ステークホルダーの好感度や信頼が高まり、将来の顧客開拓や製品購入を増やす場合である。この便益を算出するには、社会的便益が経済的便益に転換される経済モデル構築が必要がある。これは、私が開発した、企業ソーシャルキャピタルモデルで計算することが可能だ。

 つまり、ポーターのCSVの費用対効果を計算することは既に可能なのだ。

 さらに話を進めると、これらの経済的便益と社会的便益を生み出すことが、どの程度、自社のミッションを強化するかという観点からも考える必要がある。この自社のミッションをどの程度強化するかが定量化が難しい場合の判断基準の一つになるだろう


2012年10月10日水曜日

CSRにおいてソーシャルインパクトを測定する必要性


わざわざ、時間とコストをかけて、ソーシャルインパクトを測定する必要性はどこにあるのだろうか?

それを判断する一つの軸は、そのプロジェクトのセオリー・オブ・チェンジに対する確信の強さである。

そのプロジェクトが社会に大きなベネフィットをもたらすということを多くの人に、強く確信されたものであるかが一つの判断軸になる。


その確信が非常に強ければ、測定対象はインプットだけでもいいかもしれない。
その確信が弱くなるにつれて、

インプット→活動→アウトプット→アウトカム→インパクトと、より測定が難しい最終目標の測定が必要とされる、と考えるといいだろう。

これは、企業のCSRにおいても適用される原則である。

2012年10月9日火曜日

競争優位のCSR戦略の実現の道は遠い?

 ポーターのHBRに掲載された「競争優位のCSR戦略」の論文を読みかえしてみた。この論文は2006年度マッキンゼー賞受賞論文であり、かなり前の論文になる。

 主旨は、受動的CSRから戦略的CSRの転換を説いた、CSR業界にエポックとなった論文である。CSRを企業の競争優位獲得の手段と位置づけた点がポーターらしいユニークな視点である。

 この論文が、その後にポーターがHBRに提示した論文、「共通価値の戦略 経済的価値と社会的価値を同時に実現する」の前段階にあたるものである。

 しかしながら、残念ながら、この論文も含めて、ポーターの主旨がよく理解されているとは言えないのではないだろうか?

簡単にまとめると以下の図のようになる。 

        図表 受動的CSR VS 戦略的CSR

 振り返ってみると、日本企業で、この受動的CSRから戦略的CSRのシフトできた企業はどの程度あるだろうか?

このシフトをするには企業には何が必要か? 

一つは、CSRの見える化、CSRの投資対効果の算出ではないかと考える。CSRの投資対効果を数値化できない限りは、経営陣の交代、景気が悪化によって、すぐにCSRの方向性が変わったり、支出が削減される恐れがあり、戦略的CSRとはなり得ないからである。

2012年10月8日月曜日

プレーヤーの近視眼的な行動の結果?


 ゲームをおこなう上で、それぞれのプレーヤーが短期思考か、それとも長期思考であるかによって、ゲームの結果は大幅に異なるものになる。

例えば、政治家、企業、国民の3人がいるプレーヤーを想定してみよう。

本来であれば、全てのプレーヤーが長期思考であることが全体利益にかなうものだ。しかしながら、現実はそうはいかない。

思考の長さを考えると、
政治家は目先の選挙まで、企業は次の経営者への交代まで、国民はそれよりも長期思考としよう。

政治家<企業<国民 という順番か?

政治家が国民よりも短期思考であると何が起こるか?

選挙に勝つための嘘をつく。マニフェストの守れなかったことが問題なのではなく、問題は政治家の近視眼的な短期思考である。その短期思考が守れない約束をすることで、結果として嘘をつかせることになるのだ。

企業が国民よりも短期思考であると何が起こるか?
利益をあげるためのリストラに走る。

短期思考は、言ってみれば、自分がその場さえ良ければ後はどうでもいいという思考なので、他人に損を押し付けても自分の利益を追求することとなる。

というわけで、どうやって、このゲームのプレーヤーに長期的な視野をもたせることができるのか?が問題となる。 そのために、どのような制度を導入するかが次の問題となる。