2012年10月20日土曜日

資本主義改造計画


 アダムスミスは神の見えざる手という比喩をもって、
「市場経済において各個人が自己の利益を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成される」とする考え方とった。

これが今の資本主義の原型を作ってきた。基本はレッセフェール(自由放任主義)だ。

しかしながら、現実はどう働いているのだろうか?

サブプライムショックによって世界で何千万人の雇用が失われたか?
ギリシャ危機に始まった世界的な変動。今度は国家の危機である。

毎年のように金融危機、国家危機がとりただされる。世界はその度に大きく変動する。
我々は危機に対して鈍感になりつつある。

果たして、資本主義に未来はあるのか?

企業のミクロ的最適化(競争)はマクロ的な安定を果たしてもたらすだろうか?

また、企業と社会の関係性が変わった
アダムスミスの時代の企業はすごく小さかった。
現代の企業がどんどん大きくなると、社会に大きな影響をもたらすようになる。
いい意味でも、悪い意味でも、外部性が生じるのだ。

外部性は、もともと資本主義の枠外の問題であった。
環境問題で外部性が注目されるようになり、今や外部性は資本主義の中心問題になっている。

マイケルポーポーターは共有価値の戦略で
「企業の目的を単なる利益の追求ではなく、共通価値(経済的価値+社会的価値)の創出と再定義すべき」と述べている。

単純化すると、外部性=社会的価値のことだ。

企業はROEを最大化することを企業の目的関数としてきた。
しかし、ROEの拡大は必ずしも公益を高めるとは限らない。

ROE=❶売上高利益率×❷総資産回転率×❸負債レベレッジに分解される。

ROEはこの3つのレバーを高めることで高めることができる。

売上高利益率と総資産回転率を高めるケースはイノベーションを伴うROEの拡大と定義できよう。

負債レバレッジを単に高めることでROEを高めるのはイノベーションを伴わないROEの拡大と定義できる。

負債レベレッジを高めることで、
負債の節税効果を使うことで、政府から資金提供者に利益を移転することができる。また、負債レベレッジを高めることは直接的、間接的な倒産リスクを高めるが、この負担は、株主以外にステークホルダーが負担することになるのだ。

ここに外部性が生じる。
負債を高めた旨味は株主が吸い取れるが、そのツケは株主が一部、その他の大部分は他のステークホルダーに回るからである。

外部性という問題をどうやったら解決できるだろうか?
ミクロの競争とマクロの安定を両立することができるのか?

一つは規制
もう一つは、そのような外部性をモニタリングする格付けである。その情報が消費者の行動、企業の行動を変えるように働ければ規制がなくても最適化が測られることになる。


2012年10月17日水曜日

ポーターの共有価値経営の実現へ 外部性のコストの算出方法


東京駅周辺の放置自転車が問題になっています。これも、外部性の問題ですね。

 この社会問題が悪化した背景は、ここ数年、臨海部でタワーマンションの建設ラッシュが続き、人口増となり、『新住民』が健康ブームやエコ志向から自転車で東京駅に通っているのではないかと予想されます。また、東京駅周辺は自転車を置くスペースの確保が難しく、行政側も駐輪場が確保できないので、一方的に放置する人たちを批判もできません。

放置する人のメリット(主に、東京駅周辺に住んでいる人で通勤に利用)
  • 通勤が楽
  • 通勤ラッシュに巻き込まれない
  • お金がかからない
  • 自分の運動と通勤を兼ねる
  • 時間の節約
外部性(その他のステークホルダーにとってのマイナス)
  • 歩行の邪魔になる
  • 周辺店舗、駅にとっては景観的にマイナス
  • 自治体側に放置自転車の取り締まりコストがかかる→そのコストは税金であり、税金の負担に
図にすると以下のようになります。
 行政の取り締まりも、捕まられる確率(1%以下)×撤去費用負担(3000円程度)=期待値30円以下で、中途半端にやっても全く効果が期待できません。

この問題はどうすれば解決できるのでしょうか?

基本的には、企業の外部性の問題と同じです
企業:自分の利益+外部性(他のステークホルダーにとってのマイナスの便益)

外部性のコストを自分の利益に算入させて、社会的に最適な行動を導くことができるか?

考えられる解決策は
  • 罰金を凄く高くする
  • 倫理などのモラルに訴える
  • 自転車を放置することで自分の評判を失うメカニズムを作る(会社に通報?
  • 境界を引き直す(→所属する会社に放置自転車の罰金を高額10万円等の罰金を課す)
  • ステークホルダーがその駐輪場の権利をトレードすることができる場を作る
  • 少なくとも、放置自転車の方々が感じていらっしゃるWilling to payまでは課金したいですね、
共通価値(経済的価値+社会的価値)も算出のプロセスは同じことです。
  • 関係するステークホルダーを洗い出す
  • 自分の会社がそのステークホルダーの影響を与えている便益を算出する
  • 様々な施策毎にそれぞれのステークホルダーの便益シュミレーションをする
  • 最終的な解決策を決める
これまで多くの企業は、企業自体が公器であり、事業活動で社会に貢献するというスタンスをとってきました。しかしながら、企業の社会にもたらす外部性がなおざりにされてきました。責任ある企業は、事業活動と、その活動がもたらす外部性の両方を考慮した経営に踏み出すべきであると考えます。これがポーターの共通価値の一つの解釈となります。

その実現の有力なツールが社会的なインパクトを定量的に測定するソーシャルインパクト指数となります(笑)。皆様は、いかがお考えでしょうか?



 




2012年10月16日火曜日

共通価値のプライシング


共通価値のプライシング

 HBR(20128)で「共通価値のプライシング」という論文があり、興味をそそられて読んでみた。設定テーマは面白いが、私からするとポイントを外している。

 共通価値とは、マイケルポーターが主張する、経済的価値と社会的価値の両方を高めることを意味している。

 ポイントは、経済的価値の最大化であるならば、従来の経済学が教えているように、限界収益と限界用が一致するポイントで価格を決定するのが最適価格になる。では、経済価値だけでなく社会的価値を考慮すると、そのプライシングはどう変わるのか? ということである。

この問題は、最高頭脳の人間をしてもそんなに簡単に解けるものではないが、いくつか考えてみよう。

 最近、ケアプロの川添社長の話を聞く機会があった。500円というプライシングは正しいのか? おそらく経済的価値だけを考えると正しくはないだろう。しかしながら、ケアプロが提供する価値として、経済的価値と社会的価値を考えるならばどうだろうか?

経済的価値:事業収入(500円×健診を受けた人数)
社会的価値:予防価値+医療費削減価値

 後者の社会的価値を高めるには、なるべく多くの人に健診を受けてもうらう必要があり、その意味で500円という安価なプライシングは社会的価値を考慮したプラシングになっている、と言える。

v他にも、ピークロードプライシングも一面では社会的価値を考慮したプライシングと言えるであろう。プークロードプライシングは、需要のピーク時には価格を高くして需要を抑え、そうでない時には価格は安くして需要を促す二重価格体系のことである。電力などの公益事業の分野に多くみられる。

ソーシャルゲーム等のフリーミアムのプラシングはどうか? 通常のユーザーを無料として、アイテム等の購入を有料にするプライシング方法である。これも、通常のユーザーが無料で参加することで、他のユーザーに対する正の外部性を発生されることを狙ったものである。たくさんの人との交流価値を取り込むために無料にしているのである。

利用者ごとにプライスを変える差別価格も、社会的価値の取り込みに有効なケースがある。フローレンスは一人親支援ということで通常の価格を下げて、かつその費用を寄付を募っている。薬の価格を途上国と先進国でプライスを変える例もある。

今後、まだまだこの共有価値を最大化するためのプライシングは研究の余地がある。
ポイントは、その価格で誰のどのような最適行動を促したいのかがポイントになる。

企業が生み出す外部性を測定する必要性


 今、自分が取り組んでいる、公益資本主義の基準作りも、CSR費用対効果の測定も、マイケルポーターの共有価値の測定手法も、結局のところ、
 企業にとって、自分にいいことと社会にいいことをどのように両立することができるか? つまり、資本主義をより持続可能なものにするためにどうすべきか?ということだ。

その背景には、
企業の社会に対する影響、社会的なインパクトがいい意味でも悪い意味でもどんどん大きくなっている。つまり外部性がどんどん大きくなっている、ことが挙げられる。

これまでの企業の方程式は
本業(プラス)+外部性(マイナス)

本業で生じるマイナスの外部性をCSRによるイメージ向上で帳消しにしようとしてきた。
これまでの企業の方程式
本業による外部性のマイナス+CSRによるイメージ向上→帳消し?

しかしながら、リーマンショック、福島原発事故でわかるように、
外部性をそのままにすることはもはや世界の、地球の持続可能性を脅かすようになってきている。

東京電力がCSRによって自分たちの活動をアピールしようが、原発事故の大きな外部性のもとではそれは無意味に映る。その外部性は本業から生じたものである。

本業で生じる、様々な外部性を内部化することが、今後、責任ある企業にはますます求められていくだろう。
今後の方程式:本業のマイナスは本業によって対応する

つまり、CSRがこれまでの本業の補完的位置づけから、本業そのものになっていくという意味であり、必要性である。
 
だから、その一見マイナスの外部性をどうやって宝の山にするか企業に求められる英知である。

そのためには、本業のどこにどれだけの外部性があるかを測る必要があり、そこでまずソーシャルインパクト指数を活用することができるのだ。。

ソーシャルインパクト指数の活用



 今、内閣府の復興支援型地域社会雇用創造事業のプロジェクト分析に、ソーシャルインパクト指数が活用されています。

 誰でも、わかりやすいように簡単なマニュアルを作りましたのでご活用下さい。

 ソーシャルインパクト指数はプロジェクトの社会的インパクトを測定するために作りましたが、そのプロジェクトの社会的インパクトを大きくするためにどうすればいいかを考える際のフレームワークとしても活用できることがわかりました。

 ソーシャルインパクト指数は5つの要素からなっています。プロジェクトのソーシャルインパクトをどうすれば測定できるかを考えるとともに、5つの要素を高めることで、プロジェクトの社会的なインパクトを高めることができるかを考えてみましょう。

❶社会的課題の解決(困っている人たち×深刻さ)
 主となるステークホルダーは誰か? どのくらいの母数がいるのか? その数は推移しているのか(上昇、下降)? その社会的問題が深刻化する背景、その要因を考えてみましょう。

 その社会的な課題の深刻さはどのくらいか? どのような指標でその深刻さを測ることができるか? 地域による違い、世代による違いは生じているのか?

❷社会的投資効果
 この比率が高いほど社会にインパクトのあるプロジェクトと考えることができます。売上等の経済的便益に加えて、そのプロジェクトを取り巻くステークホルダーに与える社会的便益を加える必要があります。経済的便益と社会的便益の関係(トレードオフ、両方高める関係性等)をよくみるようにしましょう。

手順
分母
ステークホルダーを挙げる
ステークホルダーの便益をあげる
ステークホルダーの便益を定量化(数×価値)してみる

分子(基本な全てのステークホルダーの投資になります)
投資を自分の団体の投資、その他の投資の分類してみる
投資を有償のものと、無償のものを分類
投資=例えば、人件費、賃料等

全体の社会的投資倍率とともに、個々のステークホルダー毎の投資対効果がどのくらいの水準なのか、ステークホルダー毎の満足度はどうかを考えてみましょう。

持続可能性の水準(有償経営資源の金額 VS  マネタイズ)も考えてみる

❸波及効果 一時的ではなく持続的な効果をどう生み出すか?

 例
  • ロールモデルを作って他の地域へ拡大
  • 主となるステークホルダーをより難易度の高いステークホルダーに拡大する
  • 仕組みを他の社会問題の解決に応用してみる
  • アドボカシーや政策に反映させる

❹スピード
 社会的な課題が解決するスピードをどのように早めることができるか?
ボトルネックはどこにあるか? そのボトルネックをどのように解消することができるか?

成果目標、成果指標(1年、2年、3年)を作り、スピードをモニタリングする。

❺基盤
この社会的課題の解決を図る、財務基盤、組織基盤、人材基盤、信用基盤、政府からの信頼などがあるかどうか? 事業活動を補完するステークホルダーを探してみる。

 注意)ソーシャルインパクト指数はソーシャルインパクト・リサーチ社の登録商標ですので、無断転載はご遠慮下さい。

2012年10月15日月曜日

ソーシャルビジネス版のバランス・スコアーカード(SBBC)


 ソーシャルビジネスのビジネス進捗を管理する方法を開発して欲しいという要望があり、「ソーシャルビジネス版のバランス・スコアーカード(SBBC)」を開発した。

ビジネス版のバランス・スコアーカードと異なっている点は、
  1. 財務的な指標ではなく、ミッションが最上位に位置する
  2. ミッション達成を定量的に測定できるソーシャルインパクトの測定指標を採用している
  3. 顧客の代わりに、より幅広いステークホルダー全体をとっている
  4. 財務指標の代わりに、持続可能性を採用し、ミッション達成の制約条件として位置づける
  5. それぞれに標準KPIを用いている

❶上位はミッション
ミッションの達成を定量的に測定するために「ソーシャルインパクト指数」を用いる。

KPI)
ソーシャルインパクト指数

❷持続可能性
ミッションの実現することができる持続可能性を有しているのか?

KPI)
事業収入とコストのバランス
継続収入と非継続収入の区別
収益源の変化(助成金、事業収入、委託収入等)

❸ステークホルダー
ステークホルダーの期待を上回る結果を生み出す

KPI)
ステークホルダーの満足度
ステークホルダーの期待とニーズの変化
ステークホルダーからの資源獲得度
ステークホルダーとの対話と理解度
ステークホルダー同士の対立矛盾の解消

❹内部プロセス
主に、組織の効率性を測定する。

KPI)
生産性(人、アプトプット、設備)
品質(不良品率、クレーム率、満足度調査)
活動フォーカス(時間配分、資源配分)

❺学習と成長
人と組織全体の活動の効果性を高める活動。

KPI)
各人のスキルや知識の取得状況
組織全体のコンピランス
リスクや変化への備えの状況

まずはモデルケースを数社でPDCAを回して、改善改良を試みたい。



マイケルポーターのCSV戦略の結末は如何に?

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  マイケルポーターのCSV戦略が注目されるにつれて、経営学者は以下のような問題を提起する。

「果たして、マイケルポーターのCSV戦略によって、企業の持続性競争優位は強化されるかどうか?」「社会的価値を高めることは企業にとって目的なのか? それとも、利益を増やすための手段に過ぎないのか?」

 ポーターのCSV戦略は「経済的価値と社会的価値を統合していく戦略」と定義される。単純化すると、これまで企業は「株主価値の最大化」、経済的価値のみを目的関数としてきたが、株主以外のステークホルダーに与える影響、つまり社会的価値も、企業の目的関数に含めることを意味する。これは、一言で言うと、「外部性を内部化する」ということだ。

 当然、このCSV戦略は、制約条件を増やすことになるので、企業にとって外部性の内部化は直接的にコストを増やすことになることも多く、利益に対しては当初は直接的にはマイナスのことが多いだろう。

企業が直面するデシジョンツリーを想定してみよう。


その外部性の内部化によるコスト増、制約増にどう対応できるかは大きくは3つのケースに分けられる。

ケース1) 
うまくビジネスモデルイノベーションでその制約を上回るパフォーマンスを達成できるケース(ユニリーバ、P&G、コカコーラ、Novo Nordisk等ごく一部の成功例)

ケース2)
 当初のマイナスを企業努力によってほぼ回復できるケース

ケース3) 
当初のマイナスを回復できないケース

 ここで当初の問題設定に戻ると、結論は会社によるということになる。ただし、現在のところ、CSV戦略の成功例は、ユニリーバ、P&G、コカコーラ、Novo Nordisk等ごく一部だけだ。 

 外部性を内部化しないことによる評判のマイナスが大きいと考える企業ほど、外部性を内部化する戦略をとる確率が高まるだろう。

 注意すべき点は、外部性を内部化するかどうかは企業の意思によって決まるデシジョン、ビジネスモデルイノベーションが成功するかどうかと、企業ソーシャルキャピタルを失うかどうかは企業の意思では決めることができない確率であることである。