英国では、投資家の儲けと社会的課題の解決を両立させる、「ソーシャルインパクトボンド」という社会貢献型の金融商品が注目を浴びている。英国以外の米国でも導入の動きがすすんでいる。
この金融商品のスキームは、もともと予め決めておいた社会的な課題の評価指標に基づき、投資家に対してインセンティブを政府が提供するものである(スキーム上は中間支援組織、NPOを経由した形となる)。
例えば、英国の例では、刑務所の再犯率が下がった場合には、成功報酬として、政府が投資家に対してインンセンティブを提供する。反対に、予め決めておいた社会的な課題の評価指標が目標値に到達しなかった場合には政府はインセンティブを提供しない、すなわち投資家が損をするのである。このため、政府は目標とする社会的な課題が解決に効果があがった場合のみお金を支払う形となる。
このスキームの利点は、
- 政府は成功報酬としてのみインセンティブを提供するので、目標とする社会的な課題が解決されなかった場合にはインセンティブを提供する必要がない。
- 予め社会的課題の評価指標が決められることで、関係者(NPO、中間支援組織)はそれを高める努力を促すことができる
- スキーム上も、社会的な課題が解決(その評価指標の数値が改善)されると、投資家は金銭的なリターンを高めることができるので、社会的課題の解決は儲かるという意識改革をうながす。
- 副次的には、NPO、中間支援団体の社会的課題の解決能力を開示させるシグナリング効果ももたらすのだ。
問題点としては、
本来は政府がリスクをとるべきところを、契約する中間支援団体やNPO、投資家に負わせているということが指摘できるかもしれない。
しかしながら、社会的課題のような、成果の判定が難しいモラルハザードの危険性が高い場合においては、このような成果報酬型のインセンティブ契約は関係者全体にとっての効率性(むやみにリスクを他社に押し付けていないこと)につながる可能性が高いと言えよう。
以上を踏まえて、私が提案したいのは、
震災復興支援にソーシャルインパクトボンドを使ったらどうか、という提案である。
これまでも、震災復興に対して政府は様々な助成金をつけてきた。しかしながら、その評価が難しい面もあり十分に効果をあげているとは言い難い。また、予算的にも、このスキームを使うことで、新たに投資家のニューマネーを引き込める可能性があるのだ。 寄付に関しては震災1年を過ぎて集まりにくくなっていることが指摘されている。しかし、社会に貢献しつつも、元本返済の可能性が高かったり、場合によっては経済リターンも見込める金融商品に対する需要は、筆者が知る限りでは、日本の機関投資家、大企業にもまだ膨大にあると思う。
そもそも、NPOや社会的企業の志だけでは震災復興は実現しない。
志に、お金という実弾を組み合わせることで、経済的リターンと社会的リターンに対してお金を提供する、新たな投資家を育てることにつながるのだ。
内閣府の復興支援型地域社会雇用創造事業が内閣府の事業仕分けで、今年度限りで中止されることが決まった。理由は32億円という予算が大きいにもかかわらずその費用対効果が見えにくいから、というのが理由である。財政逼迫の中で、予算を切り詰めていく必要性が高まっているのはもっともだ。それに対しては誰も異論はない。しかしながら、効果が見えにくいことと、効果がないことはイコールではない。市場メカニズムでは解決することが難しいNPOや社会的企業の活動の成果が、お金のリターンのように目に見えにくいのは当たり前の話だ。それを、効果が見えにくいということを理由に斬っていったら、政府自体の助成の価値はなくなるだろう。強いては、税金を徴収して再分配する価値も大きく損なわれるはずだ。
政府には、もっと戦略的に、どういうスキームを使うと社会的な価値を引き出すことができるのか、引き上げることができるか? ということを狙ってもらいたいと思う。そういう発想をもたないと、ソーシャルセクターの税金の使い道は効率化されないからである。
そういう意味で、ソーシャルインパクトボンドは、見えにくい社会的な価値を引き出す、社会的課題の解決と投資家の儲けを両立する妙薬になりうるのである。