2012年12月10日月曜日

インパクト・インベスティングの可能性



 インパクト・インベスティングとは、金融市場を通じた融資や投資を通じて、貧困や教育など途上国の社会的な諸問題を解決しようとするものである。 米国でもまだ依然として、寄付や政府援助が中心であるが、特に2008年の金融危機以来、既存の金融システムが限界を露呈する中、インパクト・インベスティングが社会に変化を起こし得る資本の1形態として注目度が高まっている。 インパクト・インベスティングの市場は、今後10年で、5,000億ドル(40兆円)にもなると言われている。 

 インパクト・インベスティング同様、途上国の生活水準の向上を目指すマイクロファイナンスは、既にバングラデシュ、インド、メキシコで、1億人以上の極小(マイクロ)企業家に対して、500億ドル(4兆円)もの融資を行っている。 マイクロファイナンスの大手であるインドのSKSマイクロファイナンスやメキシコのバンコ・コンパルタモスなどは、当初は非営利団体であったが、今や民間の投資家が出資する存在となっている。 一方、インパクト・インベスティングは市場原理を通じた資本の提供を行う点に特徴があるが、それが果たしてうまく機能するかという問題も存在する。

 地球上の20億人の人々が、水、医療、電気が不足しており、25000万人の子供が教育や予防接種の機会が持てず毎日250万人が死亡するという現実を前にして、インパクト・インベスティングがすべてを解決してくれるというのは幻想である。 その点で、公的な援助の役割は今後とも重要であり続けることは間違いないが、市場原理に基づく民間の投資家の参加を、インパクト・インベスティングを通じて促すことで、政府単独での援助よりも、より効率的かつ効果的に、途上国の貧困などの諸問題の解決が可能となると思われる。 

インパクト・インベスティングは、市場原理を通じて行うものであるだけに、元本の保全が重視される。インパクト・インベスターは、インパクト・ファースト・インベスターとファイナンシャル・ファースト・インバスターの2種類に分類される。 

 インパクト・ファースト・インベスターは何よりも、社会や環境の問題の解決をめざし、投資収益の獲得は二の次とする。 一方、ファイナンシャル・ファースト・インベスターは、投資収益の獲得を第一義とし、諸問題の解決はより低位と位置付けている。 しかし両者とも、民間の投資家であるため、投資の収益がマイナスとなることは望んでいない。

 インパクト・インベスティングの投資家には、途上国援助を行う金融機関、民間の基金、民間商業銀行、事業会社、個人富裕層などがある。 また投資手法には、ミッション・リレイテッド・インベストメンツ(MRI)と、プログラム・リレイテッド・インベストメンツ(PRI)に大別できる。

 
 ミッション・リレイテッド・インベストメンツ(MRI)は、基金など投資家が、社会的善の目的追及に合致する投資を行い、かつ市場平均並みの収益を目指すものである。 一方、プログラム・リレイテッド・インベストメンツ(PRI)は、社会的善を専ら追及し、収益は市場平均以下でもよいとする。 米国では、基金が税制上の特典を得るためには、資産の最低5%を毎年、収益を生まない無償の社会的事業に投じなければならないとされる。

 上記投資家と途上国の事業者をつなぐ仲介業者が次々に生まれている。 アキュメン・ファンド、グラスルーツ・ビジネス・ファンド、IGNIA、オミディアール・ネットワーク、やルート・キャピタルなどがある。 これらは、株式、債券、融資、助成金、ベンチャーキャピタル、不動産、ヘッジファンドなど種々な形態を通じた援助を行う。

 米国では、毎年3,000億ドルが慈善目的の投資であるが、そのうち基金が450億ドル、事業会社が150億ドルとなっている(2009年)。 興味深いことに、1969年以降、米国の基金は、税務上の非課税特典を得るため、資産の5%を慈善事業に配分したためか、PRIでは市場平均以下の収益しかあげれなかった。 2011年の調査では、1,200の基金のうち、14%しか、ミッション投資をしていなかったが、さらにそのうち半分がPRIを行っており、28%PRIMRIの両方を行っていた。 この低いPRIに比率は、基金が保守的なためか、質の高い投資対象が少ないためか、不明である。

成長するインパクト・インベスティングの市場のインフラとしては、ANDEAspen Network of Development Entrepreneurs)やGIIN(Global Impact Investing Network)などのネットワークが円滑な情報交換の場を形成している。 またGIINが中心となって、IRIS(Impact Reporting and Investment Standards)という業界標準ともなるべき共通の評価システムの構築も進んでいる。

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