2012年9月25日火曜日

ケアプロのソーシャルバリューの定量化


昨日、ケアプロの川添社長のお話を聞いて、改めて、ソーシャルイノベーションをどう測るか?を考えさせられた。

企業が生み出す価値には2種類ある。

お金を儲けるという経済的価値と、
社会にどう便益をもたらすかという社会的価値である。

ケアプロの場合の社会的価値は、生活習慣病を早期に発見して対処することができることの価値と、国や地方自治体の医療費を予防によって削減できる価値が生じている。

企業が、直接お金になるのは経済的価値だけである。

企業は経済的価値と社会的価値をどうバランスさせていくべきか?
実は、この手の難しい意思決定は様々な所で生じている。例えば製薬メーカーがAIDSに効く薬を途上国にいくらで提供すべきか?など。

この意思決定には、まずは、社会的な価値、ソーシャルバリューを定量的に算出することが必要となる。

ソーシャルインパクト指数という考え方を用いることで、
   社会的課題の深刻さ 
   社会的投資対効果 
   波及効果 
   スピード
   経営基盤
の5つのファクターよって、ソーシャルバリューを定量化することができる。

今後、企業はますます自社がもたらす社会的な価値を可視化し、経済的価値と社会的価値をバランスさせて意思決定することが求められていくだろう。





ソーシャルビジネスと広告ビジネスの類似点

ソーシャルビジネスと広告ビジネスはある意味では近い面がある。どこが?と思われる方も多いかもしれないが。

ソーシャルビジネスはサービス受益者とお金の支払い手が異なるケースが多い。

広告ビジネスも、例えば地上波テレビは消費者がサービス受益者だが、お金を支払うのは企業スポンサーであって、サービス受益者の消費者ではない。

この違いがあるために、企業がスポンサーになるかどうか、企業スポンサーがいくら支払うかは、間接的な指標に基づいている。それは、視聴率である。

ソーシャルビジネスではこれはソーシャルインパクトにあたる。
企業の社会的インパクトを用いて、ステークホルダーからお金を出してもらう必要がある。

企業のインパクトを、経済的価値と社会的価値で捉えると、フリーにすることで、直接的な経済的価値はゼロになるが、社会的な価値はその分、多くの消費者が視聴者になることになって高まる仕掛けである。

視聴率という指数も、もともとはそれほど信頼性が高いものではないが、長く使われていることで一定の信頼を得ている。

これから、ソーシャルインパクトという指数も、信頼を得ることができるだろうか?

2012年9月24日月曜日

ケアプロのビジネスモデル


 今日は、ケアプロの川添社長を交えてソーシャルビジネスのワークショップをおこなった。例によって、私が考案した、ソーシャルビジネスのフレームワークを用いた。

 ケアプロは株式会社形式でやっており、サービス受益者からサービス対価のお金をもらうのが基本であり、ソーシャルビジネスの中でも通常のビジネスに近い。

私の関心は、企業がどうやってソーシャルイノベーションをおこすか?である。

ソーシャルイノベーションは、経済的価値と社会的価値の大きさであり、
 株主に対する価値と、その他のステークホルダーに対する価値にわかれれる。

 ケアプロはこれまでに10万人(累計)の検診をおこなっているがサービス単価500円という単価の安さから、経済的価値はまだそれほど大きくはない。

 しかしながら、生活習慣病等の予防がもたらす社会的価値は金銭換算するとものすごく大きくなる可能性がある。確率的な社会的な価値の発生が見込まれるのだ。

また、検診者ストックとそのデータがある。このデータが将来価値をもつかもしれない。

ソーシャルビジネスのポイントはソーシャルバリューをいかにマネタイズするモデルを構築できるかだ。現在、ケアプロはまだソーシャルバリューをマネタイズは不十分である。
1コイン検診をウリにしているが、1コイン500円はコストであって、検診者の価値ではないのだ。行政、自治体が予防検診の正当な経済価値を評価したら、そのソーシャルバリューをもとにしたプライシングをして、ソーシャルインパクトボンドのような金融債券が可能になるかもしれないのだ。10年タームでみれば、その可能性は少なからずあるのではないか?



公益資本主義の条件とソーシャルイノベーションの関係



 原丈人さんは公益資本主義を3つの条件、即ち「富の分配の効率性」、「企業の継続性」、「改良改善性」で定義している。この3つの条件は、マクロ的な観点の捉え方である。私が主張する、ソーシャルイノベーション、即ち、企業の目的関数を「経済的便益と社会的便益の両方にすること」はミクロ的な観点からの捉え方である。



富の分配の効率性と企業ソーシャルイノベーション
 原さんは大企業CEOと一般社員の賃金格差を例に挙げている。これはステークホルダー間の分配の公平性、効率性に関する議論である。企業のソーシャルイノベーションにより、経済的便益と社会的便益が高まること、すなわちステークホルダーの分配可能なパイを増やすことにより、富の分配の効率性は高まることが予想される。

「企業の継続性」と企業ソーシャルイノベーション
 内部留保の増やすことはROEを下げるので株主には短期的にはマイナスであるが、他のステークホルダーにはプラスになりうる。企業のソーシャルイノベーションにより、経済的便益と社会的便益を高めることは、広い意味で企業の継続性、サステナビリティを高める。ただし、短期的に損を被る株主を納得させるには、短期の損が長期的には得になるという期待や、ステークホルダーからの信頼が必要となる。

「改良改善性」と企業ソーシャルイノベーション
 改良改善による製品開発、品質向上、生産工程の改善、さらには「安心安全を維持する要素など」を含む。これは、まさに企業ソーシャルイノベーションそのものである。株主に対する経済的便益を追求するとともに、他のステークホルダーの社会的便益も同時に高めることがソーシャルイノベーションだからである。

観点を変えると、

 企業が目的関数をソーシャルイノベーション、経済的便益と社会的便益をともに高めることは、公益資本主義の必要条件であり、原さんの主張される、3つの条件は、十分条件と考えることができます。

 したがって、私の企業ソーシャルキャピタルをもとにしたソーシャルイノベーションの大きい会社を、さらに、原さんの3つの公益資本主義の条件で選択することで、公益資本主義の企業群を選定できると思います。




2012年9月21日金曜日

公益資本主義の成立条件を考える

 原丈人さんは日本を代表するベンチャーキャピタリストだが、数年前から、これまでの資本主義の欠陥を指摘し、新しい公益資本主義を提唱している。公益資本主義の条件として以下の3つの条件を挙げている。

1つ目は、富の分配の公平性。企業CEOと労働者の賃金格差があまりに開きすぎるのはおかしいという観点である。

2つ目は、企業の継続性。様々な企業の危機に対応するだけの内部留保をしっかり持つ必要性があるという観点である。

3つ目は、改良改善性。イノベーションによる製品開発、品質向上、生産工程の改善を図る必要があるという観点である。

 私はソーシャルイノベーションの重要性を強調する。資本主義3.0時代の企業の目的関数は、経済的価値のみならず社会的な価値を高めることになると考えている。

原丈人さんの主張はと私の主張は、どう整合的に整理されるのだろうか?

原さんはマクロ観点、私はミクロ観点からアプローチしている。 

いわば、ミクロ、短期が実現されることで、マクロ、長期が実現されるという関係になる。

 そのミクロとマクロ、短期と長期を結ぶカギは企業ソーシャルキャピタルステークホルダーからの信頼、好感度、関係性である。この企業ソーシャルキャピタルは成功をもたらす前提条件であるとともに、成功の結果になる。こういう変数をなんと定義したらいいのかわからないが、好循環を生み出すレバレッジポイントと言えるのだ。

 企業ソーシャルキャピタルを高めることが、企業のソーシャルイノベーション、経済的価値と社会的価値を大幅に高めることを可能とする。その結果、ステークホルダー間は、短期的視点、対立、トレードオフから、長期的視点、協調、トレードオンに変わる。
その結果、マクロ的には、富の分配の公平性が実現され、内部留保も高まり、改良改善性も高まる、パレート最適性を実現できるのだ。