2013年1月22日火曜日

ビッグデータが日本企業に迫る本当の意味は?

 ビッグデータ活用に注目が集まっている。これまでとはケタが違うレベルの大量のデータの活用が可能となってきたことが背景である。しかしながら、日本企業はビッグデータを自社の競争優位につなげることができるのか? そもそも、ビッグデータが競争優位につながるものなのかはまだ十分に実証されたとは言えない。

 ビックデータ活用でよく取り上げられるのはアマゾンである。日本法人も、米国同様のビジネスモデル、データ処理、アルゴリズム処理をおこなっている。日本法人の売上は4700億円を超えて、まさに斜陽産業となっている書籍業界の中でも破竹の勢いとなっている。
この背景にはアマゾンのビッグデータの活用のうまさがあると言われている。

 そもそも、競争優位につながるかどうかはその資源(リソース)の質による。リソース・ベースト・ビュー(RBV)理論にたつと、競争優位の源泉はその企業独自のユニークな資源であり、かつ、その資源は、①模倣可能性、②持続性、③帰属性、④代替可能性、⑤競争優位性を満たす必要がある。

  例えば、オイシックスは顧客が自社の会員になるかどうかは豚肉を注文したかどうかで高い確率でわかることを発見したという。これが事実であれば、豚肉を買ってもらうためにセット商品にしたりまた、価格を下げたり、ビッグデータを活用してマーケティングに活かすことができれば確かに競争優位に繋がるものと言えよう。

 オイシックスの例では、自社の顧客データを活用するという点ではまさに①模倣可能性、③帰属性、④代替可能性を満たしていると言えよう。ただし、そのビッグデータを活用する人材という補完的な経営資源なくしては、そのビッグデータは宝の山ではありながらも、潜在的なものにとどまるという点には注意が必要であると言えよう。ビッグデータ時代に増えるのは非構造的な、定量的なデータの方であり、そのデータを如何に構造化し、データから組織に意味のあるインプリケーションを導くかはそう簡単な話ではないのだ。

 また、業界によってもビッグデータの活用度合い、そのポテンシャルは異なる。私からみると、日本の業界で比較的ビッグデータの進んでいるのはソーシャルゲーム業界、コンビニ業界である。例えば、あるソーシャルゲームの会社では、発売したソーシャルゲームがヒットするかどうかは、発売直後の1〜2週間ぐらいのトラフィックデータ、インタラクションデータから高い確率で推定可能という。また、ソーシャルゲーム業界はアイテム課金などの課金方式で、ユーザーのWilling to Payの課金になっており、リアルタイムマーケティングが進んでいる。コミュンケーションが活発なユーザーほど高いお金をアイテム課金で落としていく。だから、ゲームの開発会社はいかに他者とのコミュニケーションを活発化されるべく、ゲームを作り込んでいくのだ。デモグラフィックデータよりもコミュニケーションデータの価値が高いのだ。これは消費者がネット、ソーシャルメディアで連結されるにつれて、様々な業界でますます重要になっている視点だ。

 ビッグデータを活用する上で、このリアルタイムなデータを活用できるのかが非常に大きなポイントと言うことができる。アジル(迅速)に、ユーザーとのリアルタイムな情報を活かし、リアルタイムなレスポンスに活かす。データは鮮度が重要であり企業に、そして顧客に価値をもたらす。そのデータの鮮度を活かすには組織にリアルタイムに情報を活かす体制がなければいけないのだ。この点では、B2B業界よりもB2C業界の方がビッグデータのポテンシャルを活かすことができるということができるかもしれない。

 もう一つこれはあまり語られていない話だが、ビッグデータを活用できるかどうかかは組織の人材の多様性が影響する。この点は、日本企業の共通の弱点にもなっているので、心すべきだろう。データ、情報は差異をもたらすものということを肝に銘じる必要があるのだ。金太郎あめのような同一の発想、思考では情報から意味を汲み取ることが難しいのだ。

 私のビッグデータの関心はソーシャルメディアROIをどう測定するかという点を出発点にしている。この点で、様々な業界で、エンゲージメントの違いが顧客価値に有為な差を生み出すことを発見し、それにあわせたマーケティング提案をしてきた。顧客、潜在顧客のコミュンケーションデータ、インタラクションデータをどう活かせるかが今後さらに重要になっていくだろう。つまり、情報の中でも、過去の購買履歴のような情報よりも、つながりの情報価値の重要性が高まっているのだ。誰とどうつながっているのか、誰とどういうコミュニケーションをとったかがその個人の行動予測性を飛躍的に高めることができるのである。

2013年1月21日月曜日

2013年ソーシャルセクターの方向性2


自民党政権に変わり、鳩山さんが推進した、新しい公共という言葉も死後になりつつある。ただし、新寄付税制とNPO認定制度は今後も、日本のソーシャルセクターに大きな影響を与えていくだろう。

ソーシャルセクターの助成金が期待できないので、中間支援組織も自主事業に向けた動きが始まりつつある。

JACEVOはソーシャルセクター向けのコンサルタント養成事業をリリースした。
私が知っている他の中間支援組織も、今年度は自主事業向けての準備を進めている。

ETICのような自主採算事業(インターシップのマッチング)があればいいのだが、中間組織団体は助成金がないと経営が成り立たないので大変である。

注目すべき流れは、 ちいさな未来企業補助である。

この「ちいさな未来企業補助金」がソーシャルセクターにどう影響を与えるかが注目される。

運用面はまだわからない点も多いが、
  
(以上引用)
若者らの小規模な起業(従業員が数人から20人以下)を促すために、1社あたり数百万円程度の小口の助成制度。2013年から5年間で約1万社を支援する方向。中小企業庁の創業・技術課の発表では、平成25年度の概算要求額は、50億円(特別重点要求40億、特別要求10億)

ITや子育て支援、介護や学習塾など、地域に根ざした会社を増やし、雇用の担い手としても期待する。また、若者の活力や女性ならではの視点を生かしたウェブデザインや、介護、食品販売など各地域の需要に合ったきめ細かいサービスの担い手を育てる狙いもある。

これをみると、ソーシャルセクターも対象になりそうである。ただし、どう採択していくのかその運用面の仕組みは不明である。

採択の認証に、既存の、ドリームゲートのような起業家サポート機関や、中小企業診断士、コンサルタントがどう関わってくるのか? 注目される。

2013年1月16日水曜日

中間支援組織のSROI分析はどうあるべきか?

社会的企業の中間支援組織のSROI分析はどうあるべきか?

社会的企業の中間支援組織の社会的価値(SROI)はどう計算したらいいのか?

 グランドワーク三島の地域社会雇用創造事業で、「社会的効果に係る第三者評価調査報告書」(抜粋)を公開されているhttp://www.gwmishima.jp/modules/information/index.php?lid=623

 この報告書では、個別社会起業家のプロジェクトのSROIの合計が中間支援組織のSROIという計算がなされている。

果たして、そうだろうか?

 例えば、ある企業が、事業A、事業B、事業Cをもっていた場合は、事業Aの価値+事業Bの価値+事業Cがその企業の企業価値になるかというと、そうではない。

現在おこなっている事業AからCに加えて、事業Dをおこなう可能性、ケイパビリティも含めて、ゴーイングコンサーンを前提とする企業の価値になるはずである。

 その事業を生み出すもとになる、人材の能力、組織のケイパビリティ、起業家をスケールアウトさせる仕組みの価値を加えるべきである。いや、むしろ、そちらが中間支援組織団体の価値となるのだ。

以前、アマゾンの企業価値を評価した際に、本を販売して儲ける価値に加えて、ビデオ、衣服など様々な領域に事業展開できるリアルオプション価値を加えて、算出した。これと同じロジックが成り立つだろう。プラットフォームの価値を考える必要があるのだ。

2013年1月14日月曜日

2013年のソーシャル業界の方向性

 2013年のソーシャル業界の方向性を考えてみたいと思います。以下の図表(Social Impact Chart)のように考えると見通しが良くなります。


 まずは、①社会的価値をどうする創造するのかがスタートラインとなります。昨年「ソーシャルビジネスの新潮流」という本を書き、その中で「ソーシャルビジネスモデル」という考え方を示すことができました。ビジネスモデルキャンバスを応用して、ソーシャルインパクトをその中に組み込みました。サービスの受益者とお金の支払い手が異なるケースが多いソーシャルビジネスではこのソーシャルインパクトをビジネスモデルに組み込むことが非常に重要となります。また、社会的価値を生み出すには様々なセクターの協力が必要という認識が高まり、Collective Impactという考え方など理論化が進んできています。当社のリサーチャーで働いて下さっている方が慶応SFCの大学院でこの実証研究をする予定です。

 次は、②社会的価値評価です。SROIやSIR社で開発したソーシャルインパクト指数がああります。SROIが効率性指標なのに対して、ソーシャルインパクト指数は効率性と効果性の両方を取り入れた指標であり、SROIの計算の煩雑さを改善することができます。実際にSROIを算出した人はわかるのですが、SROIの絶対的数値に本質的な価値はなりません。それなのに、SROIの計算に厳密性を求めるのは全く愚かなことなのです。これがSROIが普及しない本質的な理由です。

 その社会的価値が生み出されると、それを投資に活かす③社会的投資の分野や、④社会的認証、法人格が関連してきます。前者は英国で生まれたソーシャルインパクトボンドが昨年はアメリカのニューヨーク市で発行されました。今年は日本型SIBが発行すべく努力したいと思います。この分野は公契約の第一人者である、明治大学の塚本先生、明治学院大学の西村先生と一緒にやりたいと思っています。

 もう一つの社会的価値評価の応用としては、④社会的認証があります。政府、州などの公的に認めるものと、第三者認証の2つがあり、特に、後者のB-Corporationの動きが注目されます。 原丈人の公益資本主義の認定など、この分野でも日本独自の動きが出てくるでしょう。

 大きな流れは、NPOと企業の境界が曖昧になり、共通の評価基準、モノサシを求める動きが、両方のセクターの垣根をさらに低くすることになるでしょう。

2013年1月13日日曜日

ソーシャルインパクトボンド(SIB)の発行実現要件


新年から、日経でソーシャルインパクトボンド(SIB)が取り上げられていたので、今年は日本でもSIBを実現させようという動きが出てくるだろう。

では、具体的にSIBの発行の実現要件を考えてみたい。
まず、参考にすべきなのは、私がプレゼンで使った以下の図表である。


この図表の要点は、SIBは公的サービスの節減分に対して成果達成コスト、介入コストが少ないほど効果があるという点である。これがSIBが予防サービスに用いられる理由でもある。

説明してみよう。
政府は何らかの社会的課題を解決するために介入をしており、その政府コストがかかっている。例えば若者就労支援を考えてみる

 仮にその若者が失業保険をもらっているとすると、約200万円の直接的な政府支出がかかる。これは直接コストだが、若者就労サポートセンター等の間接的な維持コストなどもかかってくる。

単純化のために、政府コストは200万円としよう。
この介入コストをSIBを発行して調達しようとする。

SIBの発行要件

要件1: 
政府コストはSIB発行によって低くなること

要件2:
介入コスト(初期投資)と投資家へのリターンの合計値(又はその期待値)は、SIB発行による節約分の範囲内に収まること

要件3:
投資家にとっては介入コストへの投資、その投資からのリターン(利子)は期待ベースでリスクを上回るリターンを提供すること

SROIの観点から考えてみる。

SROIは以下のように定義できる。
SROI=(経済的便益+社会的便益)/投資金額

介入コストは、分母の投資金額にあたる。
政府の節約分は分子の社会的便益にあたる。他にも、失業者が職を得ることによる心理的満足、次年度以降も雇用維持された場合の経済便益等も考えられる。

単純に考えると、このSROIが高いほどSIB発行要件を満たすので発行しやすくなる。


数値を当てはめてみよう。
現在、若者の失業者のコストが失業保険費の直接コストのみで200万円としよう。

介入コスト=50万円
投資家のリターン=5万円
SIB後の政府コスト=50万円
とすると、SROI3倍になる。
以上の想定では、投資家は10%のリターンを得る。

後、重要なことは、

要件4: 
SIBを支払うアウトカム成果の評価測定ができること。

後、見逃されやすいが、

要件5: 
SIBのアウトカム成果の評価は投資家への利払いの前になされなければならない。

以上の5点が、単純化したSIB発行の要件と言えるだろう。