2012年8月15日水曜日

営利企業とソーシャルビジネスの違いはどこにあるのか?


企業とソーシャルビジネスの違いはどこにあるのかを考えてみたい。

 企業はそもそも社会的な存在であるから、こと更にソーシャルビジネスを取り上げる必要はないのではないかという考え方も、企業人を中心に根強いものがある。

 図表で、営利企業とソーシャルビジネスを対比してみた。

 この対比は、あくまでの単純化したモデルビルディングであり、現実の企業はこの2つのモデルを極にして、モメンタムのどこかに含まれるか形となるだろう。また、現実の営利企業が、社会的要請によりソーシャルビジネス化しつつあるので、その境界がさらに曖昧なものとなっている。

 営利企業の目的は、企業価値の最大化である。目標は経済的価値を生み出すことであり、企業にとって優先順位は株主である。ベンチマークは時価総額、評価尺度はROEとなる。つまり、株主からのお金をいかに効率よく増やしていくか、その資本効率が営利企業のベースとなっている。

 これに対して、ソーシャルビジネスの場合はどうか? ソーシャルビジネスの目的は社会的価値の解決である。目標は経済的価値のみならず、社会的価値も含まれる。必ずしも儲けること、経済的価値の追求がソーシャルビジネスの目標ではない。ソーシャルビジネスの優先順位はステークホルダー全体となる。ベンチマークはミッションがいかに実現されるかであり、評価尺度は社会的なインパクトになる。

企業レジュームは、競争によって、効率性の差によって、企業の境界が決まってくる。これが社会全体のパレート効率を高めるという前提に立っている。(この前提が本当に成立するならばソーシャルビジネスの活躍の範囲も大幅に制限されるものになるだろう。)

対して、ソーシャルビジネスのレジュームは、社会的な課題の解決のために、他のセクターと協調し、エコシステムを作りながら、社会的な問題の解決を図っていく形である。

現在は、ヴィークルとしては、営利企業は株式会社を選択するケースが多いが、ソーシャルビジネスは、株式会社、NPO、一般社団法人、協同組合など様々な形が用いられている。

実際は、企業とソーシャルビジネスでは、目的、目標、ガバナンスの仕方に違いが生じているのである

2012年7月31日火曜日

これからの日本の繁栄に必要な社会契約とは?


リチャードフロリダの「クリエイティブ・クラス」で、これからの都市に必要な変革について、クリエイティブ・コンパクトとしてまとめている。

クリエイティブコンパクトとは、もともと、1930年代から50年代にかけて工業化社会における繁栄を導いた社会契約になぞられて、新しい経済に必要な社会契約としての提案されたものである。

私はこれを修正して、
これからの日本の繁栄に必要な社会契約として、ソーシャル・コンパクトとしてまとめ直してみた。日本の震災復興においても役立つ指針にしたい。

全部で11項目ある
  1. 全ての人間は生まれながらにして創造的(Creative)であり、ひとりひとりの可能性を信じる
  2. あらゆる社会の課題(失業、貧困等)は、個人の問題ではなく、社会の制度がもたらしたものであり、その改善は完璧に可能である
  3.  個人、および組織の創造性(Creativity)を社会の課題解決のために最大限に使う
  4. あらゆる面で起業家精神を促す
  5. 異質な人たちとも手を組むオープンイノベーションを広げる
  6. 創造性を育む教育に対して投資をおこなう
  7. 大学を創造性のハブにする
  8. 自己表現こそが経済成長の核心であり、自己表現できる能力こそが経済成長のエンジンであり、あらゆる場面で自己表現を促す
  9. あらゆるコミュニティを創造的にする
  10. 目に見える経済的な利益とともに、目に見えないが価値がある社会的な利益に対して十分な配慮をもつ
  11. 地方の時代を実現する
  12. 異質なものへの受容性、開放性と多様性の価値を再確認する
  13. グローバルな視点を取り入れる
 この13項目は、これからの日本の繁栄にはどれも必要で、欠くことができないのではないかと思います。

2012年7月26日木曜日

ユヌス博士のソーシャルビジネスの核心は所有形態にあり



「資本主義の新しい潮流に向けて」というシンポジウムに参加した。ユヌス博士、原丈人さんなどがパネラーとして参加した。

 今回私が感じたのは、資本主義はどうかという抽象的なレベルの議論では生産的な議論はおこなうことは難しいということである。皆さん、いろいろと資本主義については博学なのだが、残念ながら、ゾウのしっぽをなでる議論が多いのである。

私は資本主義という抽象を議論するのではなく、
 ずばり、
経済活動をおこなう主体の所有形態の違いにフォーカスするのがいいと思う。

この部分が、資本主義の核、エンジンだからである。

所有形態→生産→交換(市場メカニズム)、調整という流れとなる。

通常の資本主義(A)とユヌス博士のグラミン銀行(B)の違いをみてみる。

通常の資本主義(A

  • 企業を株主が所有
  • お金を多く出した人が決定する権利をもつ、残余利益の請求権をもつ
  • 所有が利益をあげるインセンティブを与える。
  • その結果、負の外部性が生じても、規制にひっかる+みつからない限りはその外部性に対するペナルテイはなし


グラミン銀行(B

  • 銀行の所有者を貧困者、お金の借り手が所有する
  • お金の借り手が評議員を選出する、お金を多く出した人が決定権をもつわけではない
  • 結果、もともとの目的である、貧困撲滅を達せるように、借り手に配慮した経営がなされる
  • 結果、負の外部性の低い、公益を考える、コミュニティベースのガバナンスシステムとなっている
  • グラミン銀行は、所有権、お金を出した人がすべてを牛耳るのではなく、コミュニティベースのガバナンスシステムを維持しているのである。

経済学は、経済ガバナンスメカニズムとして、市場と組織を想定する。このグラミン銀行はその中間型組織(コミュニティベースのガバナンス)として位置づけることができるように思う。この核には、所有形態の違いが大きな影響を与えているのである。

この文脈で、はじめて、ユヌス博士がソーシャルビジネスは投資家は元本のみの回収に制限している意味を理解することができるのである

2012年7月25日水曜日

ワタミがやっているのはソーシャルビジネスか、それともアンチソーシャル?


 ワタミの渡邉会長とユヌス博士がソーシャルベンチャーファンドを作ることを発表した。

ワタミは従業員の労働環境が劣悪であることから、この会社の評価はネット上でも賛否両論が渦巻いている。

 2008年に入社2カ月の新入社員が自殺し、長時間労働によるストレスが原因だったとして、神奈川労働者災害補償保険審査官が労災適用を認めた。

ワタミの渡邉会長が進めているのは本当にソーシャルビジネスなのか? 

ユヌス博士はソーシャルビジネスの7原則を掲げている。
この7つの原則を満たさなければ、ユヌスさんの言うソーシャルビジネスとは認められないのだ。
  1. 経営目的は、利潤の最大化ではなく、人々や社会を脅かす問題を解決することである
  2. 財務的・経済的な持続可能性を実現する
  3. 投資家は投資額のみを回収尾できる。投資の元本を超える配当は行われない
  4. 投資額を返済して残る利益は、会社の拡大や改善のために留保される
  5. 環境に配慮する
  6. 従業員に市場賃金と標準以上の労働環境を提供する
  7. 楽しむ 
ソーシャルビジネスは結果のために手段を選ばず、ではない。それは従来のビジネスでありがちであった。従来のビジネスは結果のために手段を選ばずという側面があり、効率性を追い求めすぎる結果、時としてはそれがアンチソーシャルになることがある。

たとえ、ソーシャルビジネスで社会的な課題を解決するという、崇高な目標を掲げたとしても、その過程(プロセス)の中で、環境や従業員を踏みつけにしたら、何も意味がないし、何も残らない。

ワタミの渡邉会長は自らがおこなっていることを、その過程(プロセス)においてソーシャルビジネスでありアンチソーシャルではないことを証明する必要があるだろう。

2012年7月24日火曜日

ソーシャルビジネスのビジネスモデルの評価


 ソーシャルビジネスは創業者の熱い想いが先行して、なかなかビジネスモデルという思考法に思い至らない面がある。

ソーシャルビジネスの中で、創業者の思いが周りの人の共感をよぶ団体はたくさんある。しかし、ビジネスモデルと言うべきものが無い団体も多い。

ソーシャルビジネスはマネタイズが難しいので、通常のビジネスより、よりビジネスモデルをよく考える必要があると思う。

私はソーシャルビジネスのスケールアウトの方程式として、以下の方程式を掲げている。

①創業者の想い×②周りの共感力×③ビジネスモデル

創業者の想いが周りに伝播して共感を生み、無償の経営資源を集めることができる。そして、その経営資源を効果的、効率的に使うことで、ステークホルダーに価値を生み出し、その価値がマネタイズされる。

もう1つの方程式は
①共感力×②価値創造力×③マネタイズ力
となる。

今後、ソーシャルビジネスの代表的な団体を15団体くらいセレクトし、ビジネスモデルの分析をして、本にして出版したいと思っている。「SB向けのビジネスモデルジェネレーション」

ビジネスモデルを評価する視点としては、
   ステークホルダーに大きな価値をもたらしているか(効果性)
   類似の価値を提供うる他のビジネスモデルと比べて効率がよいかどうか(効率性)
   競合、新規事業者にとってどの程度模倣が難しいか(模倣困難性)
   そのビジネスモデルは長期的に持続しうるかどうか(持続可能性)
   将来の発展可能性、展開力をどの程度もっているかどうか(発展可能性)
などの観点が挙げられる。