SROIは1990年代後半に米国REFによって開発された、ソーシャルビジネスの社会的価値を定量的に測定する評価手法である。当初は注目を浴びたが、その後は、それほど広く普及してはいない。
その理由はこの手法にはいくつかの欠点があること。特に、そのプロセスが複雑で、アウトプカムの金銭価値の換算が難しいこと、手間がかかることなどがその理由である。しかしながら、ソーシャルビジネスの社会的価値を算出できること、価値ベースの評価手法であること、数値化による客観性・比較可能性など大きなメリットも有する。
そこで、(株)ソーシャルインパクト・リサーチは従来型SROIの欠点は補い、より簡便に、より効果的に、ソーシャルビジネスの社会的価値を算出する新たな社会的価値の評価指標「ソーシャルインパクト指数© (Social Impact Indicator©, SII)©」を考案した。
このソーシャルインパクト指数©は、5つの指標《①社会的課題の深刻さ、②投資対効果(修正SROI)、③地域・産業への波及効果、④スピード、⑤経営基盤・持続性》から構成されている。 これは、日本版SROIと位置づけることができる。
内閣府地域社会的企業創出事業で助成対象の30社に関して、ソーシャルインパクト指数©を用いた、ソーシャルインパクト分析をおこなった。
その結果、わかったことは、
・ソーシャルビジネスによって、SROIには大きな幅があること、
・SROIとSII©にはかなりの差が生じていた。つまり、従来SROIだけでは十分に社会的価値の大きさを計ることができないことを示唆している。
・また、投資対効果と波及効果を比較すると、この2つのファクターはかなりの差が生じている。これは、現時点の効率性と将来ポテンシャルは異なること、したがって、この2つを明確に区別することが正しい社会的価値の評価につながることを意味する。プロジェクトそのものとソーシャルビジネスを運営する組織の評価は異なる。後者はより波及効果やポテンシャルの価値が大きくなることがわかる。
・また、お金以外のボトルネックの存在が社会的価値に大きく影響することがわかった。つまり、この部分を正しくは把握することが重要である、
以上を踏まえると、これまで、ソーシャルビジネスや社会的なプロジェクトの評価は、定性ベースで評価者の恣意的によって運用されてきたが、社会的価値の評価手法を、ソーシャルビジネスの中間支援団体や行政が理解し使いこなすことは、評価の客観性、明瞭性、説明責任を果たす上で、何よりも、社会的な価値を増やす上で大切なことであることがわかる。
今後、東日本大震災もあり、財政が逼迫する中で、NPOや社会的企業へ回ってくるお金も細っていくことが予想される。お金のムダ使いを減らすという観点もそれなりには重要であるが、社会的価値を増やすという観点から、より効果的に資金が使われることが豊かな社会の実現には不可欠となる。その意味で、最終価値ベースで社会にとって価値があるプロジェクトを採択していくことの重要性が今後ますます高まることが予想される。
今後、ソーシャルインパクト指数©を、社会的価値を組み込んだ公契約においても活用できるかどうかを研究していきたい。また、通常の営利企業においても、社会的価値を考慮した上で事業を展開すること、意思決定をおこなうことの必要性がますます高まっているので、その方面での研究も続けたい。
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